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第98話

「や、やっぱり俺も一緒に食べる!」 怒鳴るに近い声で咲也がお茶会に参加する意思を伝えると、綾人は驚いた顔を一瞬見せたが直ぐに嬉しいと笑顔を見せた。 「じゃあ、三十分後に渉君と僕の部屋へ来て!ざくろもそれぐらいだったら仕事から帰ってくるはずだから」 ニパッと笑って手を振る綾人を咲也は見送ると、自分の行動にげんなりした。 大きな溜息を一つ吐いてから重い足取りで自室へと戻る。 出来るなら今日はもう渉に会いたくない。 どんどん自分を侵食してくる渉が本当に嫌なのか嫌ではないのか分からなくなっていた。 そんな分からない自分がどうも許せないのだ。 渉のことを考えると疲れる。 そばにいると息苦しくて…… 気楽に付き合い、自分の唯一の理解者だった幼馴染みとの関係が音を立てて崩れていくのを咲也は重い溜息を吐くと同時に心底嫌気がさしてしまった。 「やめよう……」 気が付けば自分の部屋の前に立っていて、中へ入ると同時に扉を背に当てながら自然と決意が口に出た。 渉との今のこの不毛な関係に終止符を打つ。 もう、意味のわからない感情や渉との距離感に悩まされるのは疲れた。 昔のような関係に戻れないかもしれない。 それでも…… 今のこの状況は打破したい。 そう強く望むと、咲也は携帯電話を取り出して綾人にやっぱり今日のお茶会には行かないとメールを送った。 「あれれ?咲也くん、やっぱり体調悪かったのかな?」 咲也からのメールを受信したケータイ電話片手に綾人が小首を傾げながらグラスにアイスレモンティーを注ぎ、それを親友である西條 ざくろの目の前に置いた。 「渉君も来ないの?」 漆黒の瞳と髪を持つ麗しの美貌でモデルの仕事をしているざくろは最近、かなり忙しい。 日々のほとんどを仕事に徹していた。 なので、必然的に学業は赤点スレスレ。しかし、夫婦関係である猛との時間だけは何が何でも確保しているらしく、週一のデートは欠かさず逢瀬を楽しんでいるらしい。 今日は珍しく仕事が早く切り上がり、帰ってくるなり綾人の部屋へ直行したざくろはお洒落なクッキーやらチョコレートが詰め合わさった豪華な箱を前に笑顔となった。 甘党仲間の二人は優一が綾人の機嫌取りにと寄越したお菓子に夢中になっていた。 「分かんない。メールだけ送っとく〜。とりあえず、先に食べとこう」 これ以上待ちたくないと自分用のグラスへカルピスを注ぎテーブルへと運ぶ。 ざくろの座るソファの隣に腰掛けると、二人は手と手を合わせて声をハマらせた。 「「いただきま〜す!」」 綾人はホワイトチョコがたっぷりかかったクッキーを。ざくろは宝石のように輝くビターチョコレートを頬張った。 「美味しいっ!」 「やっば!これ、絶対有名なとこのだよ!口溶けが半端ない〜!!」 二人して足をバタつかせては美味しいおやつを舌鼓む。 「門倉先輩、甘いの嫌いなのにこんな美味しいのよく見つけてくるよね」 今度はクッキーを頬張りながら、ざくろが感心すると、綾人が大きな瞳を半分閉じて、嫌そうに言った。 「大学のかっわいい女の子達がどうせ教えてくれてるんだと思うよ〜」 「ヤキモチ?」 「違う。事実を答えただけ。嫌な解釈しないで」 ざくろの返答にクワッと目の色を変えて言い返してくる綾人に笑みが溢れた。 なんだかんだと優一が大好きで独占したい天使は未だにこの辺りは素直になれないらしい。 自分だったら、猛に女の子と仲良くしないでって言えるけどな。と、ぼんやり考えていたらトントンっと部屋の扉がノックされた。

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