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第101話
次の日から渉は咲也を追い掛け回すことをやめた。
咲也も咲也で気には掛かったものの、それを表に出す事はしなかった為、二人にはあからさまな距離感が生まれることとなった。
だけど、それは離れたいと考えていた咲也にも強烈なショックを与えるものだった。
寮でも学校でも生徒会でも決して離れず、どれほど邪険にしても笑顔だったのに今では用事がなければ会話すらしない。そんな殺伐とした関係性。
これで良いと思おうとするものの、ふと一日を終えてベッドに入り眠りにつこうとするとき大きな寂しさに襲われた。
このベッドで渉と体を合わせたことを思い出すと、涙すら込み上がる。
そんな不甲斐ない自分を律していたら、ある日の夜いつも通りに眠りにつこうとベッドへ入ったとき全身を駆け抜ける嫌悪感に吐き気を催した。
「うっ……」
そのままベッドの上へと夕食に食べたものを戻してしまった咲也は手や衣服に付いた汚物にわなわな体を震わせて脱衣所へと駆け抜けた。
「き、汚いっ!」
顔面蒼白で衣類を脱ぎ捨てると、咲也は風呂場に入ってまだ冷たいままのシャワーを頭から被っては汚れを落とそうと躍起に体を擦り始める。
何度も沢山の泡で全身隈なく洗うものの、一向に綺麗になっている気がしなくて咲也は半泣き状態でその夜、永遠と体を洗い続けた。
朝方、まだ自身が汚れているとしか思えない咲也はとりあえず登校する時間が迫っていることから渋々制服へと裾を通した。
だが、その制服もまた菌やら埃が付いているのかと思うと冷や汗が流れて頭の中がパニックに陥った。
この状態は潔癖症の症状
咲也自身、最近どうもおかしいとは思っていた。
丁度、渉から距離を取られ始めてから心の均衡が崩れ始めていた。
兄が卒業し、孤独を感じ始めたが、渉がそれを埋めていてくれたのを今では痛感する。
体を幾度となく合わせ、好きだと言われて心はすでに絆されていたようだ。
分かってはいた。分かってはいたのだが、それを認めるのが怖くて見て見ぬフリをした。
その代償がコレだ…
苦しい
体を合わせて奥まで汚された時にでもこんな風にはならなかった。
それが、数日離れただけでこの有り様。
実は数日前から既に潔癖症の症状が出ていた咲也の手はアカギレ状態になっている。
それもまた見て見ぬフリを続けていた結果だ。
今までは兄の元へ行って、頭を撫でて抱きしめてもらえたら治っていたこの症状も、今ではどうすれば治るのか分からない。
渉は頼らない
いや、頼れない
最近の渉はとても自由だから
元々砕けた明るい性格に持って生まれた恵まれた容姿は昔から男女問わず兄達同様モテている。
男を相手にしたのは咲也が始めてだったのだろうが、自分との関係を断ち切ってからはどうやら寮内の子達とも遊んでいるようだ。
生徒会長をしてるだけあり、人気も莫大。
相手に困ることはまずない幼馴染みの夜の噂は距離をとっていても自然と耳に入ってきていた。
自由に遊べばいい
俺を好きだと言ったことが錯覚だったのをちゃんと把握したのだろう
付き合ってるわけでもなかったんだし、このままそっとしておいてやるのが優しさだと咲也は微笑を浮かべた。
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