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第103話
渉の意外な反応に三人は目を丸くした。
「咲也の奴、何かあったのか!?」
血相を変えて聞いて来る渉に三人は顔を合わせると少し気まずそうにポツポツと言葉を紡ぐ。
「俺らも噂しか知りませんけど、かなりの潔癖症なんですよね?学食で見かけたとき、共同の食器も使えないとかで副寮長の白木先輩がなんか色々世話焼いてるって……」
「この前、すれ違ったらすっごい消毒液の匂いして手袋してたし……」
「学校の席に着くのも今は必死だから、もしかしたら退学するかもって聞きましたよ。まぁ、これは噂だけど……」
三人からの話に渉の顔から血の気が引いた。
咲也の潔癖症状が本格的になっているからだ。
幼馴染みなだけあり、渉は咲也が最も酷い症状の状態の時も知っている。
知っているが、これはかなりのヤバイ症状で頭の中が一瞬真っ白になった。
好きな相手なら同じ教室で同じ生徒会で何故気付かないのかと、三人の下級生は眉間に皺を寄せて自分を見つめてきた。
咲也はいつもポーカーフェイスだ。
たまに砕けた表情を見せるが、それは他所ではしない。
信頼を寄せたもののみ見せる特別なもの。
手袋も教室では不審に思われない為に症状をなんとか隠す為、ギリギリの精神状態で外していたのだろう。
生徒会でもそうだ。
最近はやたらと綾人が咲也と絡んでいたようだが、これが原因だったのかと渉は掌で額を押さえた。
咲也との距離を取ったことをここで初めて後悔する。
咲也を視界に入れると近寄りたくなるから、極力目に入らないようにしていたのだ。
たまに盗み見ていたが、勘が鋭く隙のない咲也に自分の浅はかな作戦がバレないかと自分のことばかり考えていた。
そんな馬鹿な自分自身に渉は大きな溜息を吐いて、反省した。
「……悪い。今から出るから帰ってくれ」
とにかく咲也と直接会って確かめなければと三人を追い出すと、渉は急いで部屋を飛び出した。
side 渉 終わり
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