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第105話
部屋に残った二人だが、渉はこの現実が受け止められないのか青い顔で絶句していた。
それを見た綾人は小さく溜息を吐く。
「……まさかここまで咲也君を放置するとは僕も思わなかったよ」
呆れ顔で告げると綾人は今日はこの部屋へ泊まるつもりなのか白いソファへと腰掛け、タオルケットを手に取った。
「ゆーいちが言うようにもう咲也君からは手を退いた方がいいよ。咲也君も渉君に負担はかけたくないって言ってたし」
「咲也が?」
「うん。色んな子と遊んでるんでしょ?僕の耳にもそういう噂は届いてる。所詮噂は噂って思ってるけど、周りはそうは取ってない。可愛い下級生達にはやし立てられてその気になるぐらいの軽い気持ちならもう咲也君に関わらないで」
いつもおっとりしては人当たりの良い綾人からキツイ一言を浴びせられて渉は狼狽した。
可愛いだけでなく言いたいことはハッキリと言う芯の強い綾人の一面に面食らう。
だけど、これぐらいの気の強さがないとあの優一とはやってはいけないだろう。
「もう、出て行って」
キッパリと自分を跳ね除けてくる綾人に渉は誤解を解きたいと詰め寄った。
「待ってくれよ!俺、他で遊んでなんてないよ!咲也一筋だ!確かに今回は自分奔放に動いたけど、まさかこんな風になるなんて……」
「なるなんて分からなかったんだろうけど、結果として咲也君をこんな風にしたのは渉君でしょ?本当に好きなら目を背けず咲也君を守るべきだ」
「……」
綾人の言葉に何一つ言い返せなくて渉は奥歯を噛み締めて口を閉ざした。
「咲也君、本当に結構崖っぷちなんだ。これ以上、掻き乱すのはやめてあげてよ。もう、手遅れだよ」
己の好きの気持ちを押し進めるのはもう止めろとただされ、渉は本当にこれで終わってしまうのかと顔を歪めた。
咲也が自分に惹かれ始めていたことは分かっていた。
その手応えだってあった。
なのに……
どうして?
「……頼むよ。チャンスをくれないか」
やり方が間違ったことは認める。
自分の未熟さも認める。
だから……
「咲也のこと……、諦めたくないんだ」
拳を握りしめ、渉はお願いしますと深く頭を綾人へ下げた。
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