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第107話

「ゔ〜ん……」 腕を組んで眉間に皺を寄せ、綾人はこれでもかというほど悩んだ。 恐らく、ここで渉を残せば優一との喧嘩は必須。 だけど、今は優一とのことよりも咲也が優先だ。 咲也を思えば、どうすればいいのか分からなかった。 速水の質問にて咲也が心から渉のことが好きなことを綾人は知ってしまった。 昔は優一が好きで精神安定剤だったのだろう。 でも今は…… 「咲也君の事が本気で好きって本当?」 厳しい声色で聞くと、渉は大きく頷いた。 嘘偽りのない綺麗な黒い瞳に渉の兄の猛を思い出す。 あの男もざくろに関してはこうした瞳をよく自分に見せていたなと、綾人は口元を緩め笑みの形を作った。 「一回だけチャンスをあげる。君が咲也君に拒否されたらアウト。精神安定剤の役割をこなす事が出来れば……」 そうだなと、綾人は宙を見つめて少し考えたあとニッコリと微笑んだ。 「ゆーいちが怒っても僕が庇ってあげるよ」 結構な好条件でしょ?と、胸を張る綾人にハイリスクハイリターンなことを渉は思い知った。 目を覚ました咲也がまた癇癪を起こしでもすれば、綾人は間違いなく今後一生涯、味方にはなってくれないだろう。 あの優一を敵に回すなら絶対に味方に付けておきたい人材に渉は気を揉む。 しかし、このチャンスを逃せば咲也とはある意味一生会わせてもらえない気がした。 ならば答えは決まっている。 「頑張るよ……」 ゴクリと喉を鳴らして、このチャンスに賭ける意気込みを見せる渉に綾人は瞳を伏せて咲也が目覚めるのを待った。

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