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第113話
「咲也!今日の夜、遊びに行っていい?」
「……うん」
金曜の夜は決まって渉は部屋へと来たがった。
嫌ではないのだが、心が重くて素直になれない。
今日も放課後は生徒会。
明日は学校も生徒会も休みで、恐らく渉は部屋に泊まっていくから土曜は一日中ベッドの中だろう。
あの正式に『恋人』となった日から渉は咲也にべったりくっつく生活が戻った。
同時にあの日から兄と連絡が取れずにもいた。
自分を迎えに来た優一が渉に対して烈火の如くキレたのだ。
嬉しい気持ちは正直あったが、困る気持ちの方が大きくて自分でもなんだか怖かった。
あれだけ兄さえいればいいと思っていたのにこの身の変わりように心がついていけずにいた。
『俺か渉、どっちか選べ!』
そう言って手を差し伸べた兄に困惑していたら、綾人が間に入って助けてくれた。
身に染み付いた習慣から、兄を選びそうになったのは事実で、そうなっていたらそうなっていたで、自分はどうなっていたのか分からない。
今の自分はもう兄では駄目になってしまったから……
早く渉じゃなくても精神的に強さを持てる打開策を見つけ出し、兄へ連絡をして許しを請いたい。
綾人が仲介人になっては日々、励ましてはくれるが見る限り優一が怒っているのは明白なようで、心が苦しかった。
そして、もう一つ……
最近では渉との情事が辛くて仕方がなかった。
快楽よりも痛みをわざと優先するがゆえに身体が変に強張って拒否反応を起こしてしまう。
金曜、土曜の夜が毎週地獄で気が重かった。
だけど、誰にもこんな相談はできず……
「はぁ……」
もう、八方塞がり状態だと咲也は小さな溜息を吐いた。
そんな自分の心の内を知るよしもない渉は咲也の手を周りには見えないように握り締めながら、クラスメイト達と談笑を始めた。
その姿を横目に渉には気付かれないよう、咲也はまた一つ、溜息を零した。
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