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第114話

放課後、生徒会へ行く途中、下級生達に呼び止められた渉は下心丸見えのいじめ相談を受けることとなった。 ベタベタと渉の体に触っては擦り寄る下級生に内心良い気はしなかったが、無様に目くじらを立てるのも嫌で咲也は素知らぬ顔で一人、生徒会室へと向かった。 時間も早かった為にまだ他のメンバーは来ていなくて、なんとなく安堵感に駆られる。 自分の席へと腰掛け、大きく深呼吸をして、ふと自分の手を見た。 アカギレもなくなった綺麗な手。 手だけではなく、渉と付き合って約1ヶ月。体の荒れもなくなった。 部屋をアルコール消毒の液で磨くこともないし、寮の食器も使えるようになって、人並みの生活を送れるように生活が戻っていた。 嬉しい反面、精神的に怖くて仕方がない。 渉の顔色を日々伺う生活に怯えが生まれていた。 眼鏡を取り、額を押さえて大きく息を吐き出し、肩を落とした瞬間、真後ろから声を掛けられた。 「どした〜?なんか、元気なくね?」 砕けた声にびくんっと、体を跳ねさせて咲也は振り返る。 「よ!」 「に、二宮さん!?」 「おぅ!神楽でいいぞー!弟」 パチンっとウインクしては馴れ馴れしくも自分の頭をポンポンと叩いてくる神楽に咲也は全く気配を感じることが出来なかったことに硬直していた。 「何か悩みか?」 隣の席の椅子を手繰り寄せ、神楽はどかっと腰掛けると端正な顔を優しく笑みにする。 前生徒会メンバーで兄とは仲が良いこの男を咲也はいつも目の敵にしていた。 だけど、いつも大人の対応で自分の嫌がらせを笑い飛ばしてくれていたのも事実。 むしろ兄と親しい分、可愛がってもらっていた程だった。 「ん?俺で良ければ言ってみ?」 優しく首を傾げてくる神楽を見つめる。 相談したい 誰かに聞いてもらいたかった…… 兄と仲直りしたい 渉に依存したくない 自分がよく分からないから苦しいと…… だけど、素直じゃない性格はやはりこれらを口にするのが難しくて…… 「切迫詰まってんな。無理すんなよ。……優一ならそんなに言うほど怒ってねーぞ」 ボロボロと涙を流しては俯く自分に神楽はグリグリと頭を撫でてきた。 そして、心配事でもあった兄のことを引き合いに出されて顔を上げた。 「兄様……」 「優一もお前のこと心配してるよ。素直じゃない馬鹿だから、電話出来ずにいるけどな」 あははと笑って、神楽が軽快に優一のことを語った。 「優一にお前の様子見てこいって言われたんだ。あ!コレ、内緒な?俺が怒られるから。あと、綾ちゃんにも!」 「白木?」 「うん。綾ちゃんがお前の味方ばっかするから、優一が膨れる。膨れる」 ゲラゲラ笑い始めた神楽に咲也は目を丸くした。 同じ大学へと進学した神楽はどうやら兄とはまだ仲が良いようだ。 基本、人を信用することがないことから親しき人間を作らない兄なのだが、逆にそう思うと神楽は兄が認めたという所ではかなりの安全人物なのかもしれないと思えた。

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