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第115話
咲也が胸の内を話してみようかどうしようか悩んでいたら、神楽が先に口を開いた。
「俺、口は堅いよ?でも、だからって無理に話せってわけでもないから弟の自由にしな。優一には俺から上手く言っといてやるから」
優しい笑みを浮かべ、無理強いすることなく神楽が言ってのけた。
それが、より信頼に繋がって咲也は口を開く。
「俺……、兄様を裏切りました。あんなに好きだったのに…」
自分の心変わりを悔いる咲也の懺悔を神楽は黙って聞いた。
「白木が現れても兄様が好きって気持ちが変わることないって思ってた。それが……」
「九流家三男に惚れた?」
渉のことを持ち出され、小さく頷く。
「お前って真面目だな〜。そんなん、別に良くね?三男と良い恋愛してんだろ?」
神妙な顔つきの咲也に神楽が肩を竦めて笑う。
あまりにも明るくて、ちっぽけな悩みなら綺麗サッパリ吹き飛ぶような口調だからか、幾分気持ちは軽くなったが『良い恋愛』というフレーズにまたしても咲也の表情が強張った。
「何?三男とうまく言ってないの?」
驚いた声を出す神楽に咲也は首を縦にも横にも振ることが出来なかった。
渉のことは好き。
自覚はしてるし、その気持ちも伝えた。
渉の気持ちは……
「渉とはやっぱり幼馴染みに戻りたいと思ってる」
ポツリと漏らした本音に咲也自身、しっくりときて納得した。
大事な存在だからこそ、一生側にいられる大義名分が欲しいのだ。
体を繋げたりすることなど、出来ずとも渉の特別な存在でいたい。
渉が好きで恋人にはなれたけど、終わる未来が確定しているだけに浮かれることなんて自分には出来なかった。
「三男のこと、信用できないのか?」
「……信用ってなに?」
神楽の言葉に咲也が真っ直ぐ見据えて聞いた。
渉の気持ち?
渉の未来?
信用ってなに?
お互い男で、渉には許嫁がいる。
俺は俺で兄様が白木と結婚したから、俺が絶対跡取りを作れる女と結婚しなきゃいけない。
許嫁だって、きっとその内に出来るだろう……
瞳を伏せて、そう遠くない将来を思う咲也は知らず内に溜息を零していた。
「三男とは遊びなんだ?」
意味深に嗤う神楽が紅茶色の咲也の髪に触れた。
優しく宥めるような手付きではなく、どこか色香を感じさせるセクシャルな触れ方に咲也は顔を上げる。その時……
「んっ…!」
隙をつくように唇を奪われ、眼鏡の奥の紅茶色の瞳を大きく見開いた。
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