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第117話

「咲也。……咲也?おい!咲也ってば!?」 数回連続で名前を呼ばれ、我に返った咲也は俯いていた顔を勢いよく上げた。 「な、何!?」 上擦るような焦りを含む大きな声の返事に生徒会室にいた役員全員が咲也を見た。 「咲也君、大丈夫?なんか、上の空じゃない?」 資料片手に綾人が近寄ってきては自分のおでこに手を置いてきた。 「熱はないようだけど……」 不意をつかれ、振り払うことも忘れて硬直していたら、皮肉にもやっぱりいつもと様子が違うと顔を覗き込まれる。 「体調悪い?今日はもう帰る?」 心配そうに顔を歪める綾人に咲也は先程の神楽との事が頭によぎって、顔を一気に赤くした。 「………なに?本当に大丈夫?」 いつもなら触るなだの、うるさいだのと悪態ついては取りつくしまを与えないくせに、大人しくおでこを触らせた挙句、赤面までする咲也に綾人が少し引いた。 「えっ……、あっ、いや…。何でもない…」 プイッと顔を背けてはバツが悪そうな顔の咲也に流石の渉もコレは何かあると踏んで近寄る。 「なに、隠してんの?お前のその反応、やましい事がある時だよな」 幼馴染みならではの分析力に綾人がそうなのかと、目を見張った。 「別にやましい事なんてないっ!」 真っ赤な顔で大声をあげる咲也に渉がムッと顔を顰めては目を半分閉じてジトリと睨みつける。 「俺に対してやましい事したわけ?それとも綾ちゃんに?」 「え!?」 まさかの自分の名前まで出てきた綾人が驚く。 咲也も驚いたが、何故綾人なのか分からなかった。 「何したんだよ?今、白状したら許してやるから。綾ちゃんに対してなら一緒に謝ってやるよ」 腕を組んで呆れ顔の渉に咲也は口を閉ざしてゴクリと唾を飲み込んだ。 まさか、兄の友人で前生徒会役員だった二宮 神楽とキスをしたなんて言えない。 それも、嫌悪を感じたりしたわけではなく快感すら感じたなんて…… なんとかこの状況を逃げられないかと咲也は綾人へ視線を向けた。 その視線に綾人はにっこり微笑むと、とんでもない勘違いと提案をしてきた。 「分かった!ゆーいちに会いたいんでしょ?咲也君、最近は電話もしてないから!今日と明日、ゆーいちの家にお泊まり行くから一緒に行こ?」 その誘いに渉はそれならと、身を乗り出す。 「咲也がゆう兄のとこ行くなら俺も行く!」 「うん。別にいいけど、喧嘩しないでね!特に暴力は絶対駄目だよ」 にぱっと無邪気に天使の笑顔を見せる綾人にそれは優一に言ってくれと渉は切に願った。

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