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第119話

「こんばんは〜」 玄関の扉を開いて客を招く綾人に神楽はニヤリと笑う。 「相変わらず、可愛いね〜。優一がいない時は居留守使いなよ?配達員とかに犯されちゃうよ?」 挨拶そっちのけに綾人を見るなりとんでもない忠告をしてくる神楽にリビングから優一の声が飛んでくる。 「綾人に触ったら、お前のこと殺すからなっ!」 怒声とも取れる声色に神楽は綾人の頬へ伸ばしていた手を済んでのところで止めてニッコリ笑った。 「今日の優一はご機嫌斜めだな。何かあった?」 小声で聞いてくる神楽に綾人が苦笑した。 「咲也君と渉君が来てるんです。ちょっとフォローしてもらえませんか?」 自分一人じゃ気まずくてと弱音を吐く天使に神楽は二人が来ていることに少し驚いたが、直ぐに任せとけと心強い言葉を掛けてくれた。 「ヤッホー。お疲れ!っつーか、弟'S遊びに来たんだ!優一、仲直りした?」 ドーナツ買って来たぞと、箱を掲げては痛々しい程凍りついていた空気感を神楽は明るい声で吹き飛ばした。 「仲直りもなにも別に怒ってない」 ギロっと、神楽を睨みつけて嘘の言葉を吐き捨てる優一に咲也と渉が下を向く。 咲也に関しては、兄の威圧的な空気と神楽との今日の行いが不安を生んだ。 「そんな怒んなよ。ブラコン弟がウザいって言ってたくせにいざ離れていこうとすると寂しいのは分かるけど、自由にさせてやれって」 「自由にさせてやってるだろ。別に引き留めてもない。相手を見る目が無かったことに関しては残念で仕方ないけどな」 腕を組んで優一が悪態つくと、渉がグッと拳を握りしめて口を開いた。 「ゆう兄!俺、咲也のこと本気だから!前はやり方間違えたけど今度は……っいて!!」 神楽が持って来たドーナツの入った箱を優一は渉目掛けて投げつけた。 それが見事に渉の頭にヒットする。 「そういうこと、普通ちゃんと顔見て話すべきじゃない?失礼過ぎるって思わねー?その辺が全然甘いんだよお前」 無表情で淡々と畳み掛けるように言う優一に渉は俯いていた顔を上げて確かにその通りだと謝った。 そして気を取り直し、もう一度口を開いたがドーナツの入った箱が地べたで転がっている事態を見た綾人の怒号で逸らされた。 「あーーー!優一のばかぁ!!」 皆んなのお茶を淹れて戻ってきた綾人はドーナツが!と、嘆きながら駆け寄ってきた。 盆の上に並べられたお茶をテーブルへ置くと怒ってドーナツの箱を拾い上げて優一を睨みつけた。

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