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第130話
「わ……たる…?」
ギューっと自分へ抱きつくように抱き締めてくる渉が泣いているように感じて咲也は黒く見た目よりはるかに柔らかな髪を撫でた。
渉の様子から神楽との事がバレたのだろう。
言い訳を考えなければいけないのに、渉が泣いているのかもしれないと思うといつものように思考が働かなかった。
だけど、渉だってよそで好き勝手しているのだ。
文句を言われる筋合いは正直ない。
だけど……
「ごめん…」
渉の傷付いた姿を見るのは意外にも堪えた。
小さな声で謝って頭に頬擦りすると、首筋に顔を埋めてきた渉に肩を噛まれる。
「……ィッ!」
痛みに身を竦めた時、両腕を押さえつけられ、不安そうな怒りを孕んだ黒い瞳に見据えられた。
「どこまで触らせたんだ?」
低く掠れた声に聞かれ、身体が強張った。
直ぐに弁解した方がいいはずなのに、責めるような瞳と言葉が自分の心に突き刺さって渉へ対しての不満がじわじわと溢れてきた。
自分だって……
「………セフレがいるくせに」
気が付いたら閉ざしていた口が勝手に動いていて咲也はハッと我に返った。
「セフレ?」
眉間に皺を寄せて、おうむ返しで聞いてくる渉に咲也は顔を晒して再び口を閉ざす。
その様子に違和感を感じたのか、渉が食い下がってきた。
「セフレって何?誰のこと言ってんの?」
「……別に」
「別にじゃないだろ!?俺にはセフレなんていない!勘違いしてるなら……」
「勘違い?不特定多数の子の所へ夜這いに行くことの何が勘違いなんだよっ!!?」
渉のシラを切ろうとする態度に咲也の中の怒りや不満が爆発した。
別に隠して欲しくない!
中途半端な気の使い方は逆に俺を哀れにするから…
いっそ、潔く認めてくれ
いつものように毅然に振る舞おうと思うのに涙が滲んできた。
両腕を押さえつけられてさえいなければ、顔を隠せたのに今は目合わせないよう晒すのが精一杯で咲也はグッと奥歯を噛み締めた。
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