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第132話

「うっぜぇーーー!ここ連日、一体何の嫌がらせなんだよっ!!」 土曜日の昼下がり、先週に引き続き渉は優一のマンションへ押しかけていた。 愛しの綾人との時間を明らかに潰されて不愉快極まりない優一は両手で頭を掻き毟りながら怒鳴った。 しかし、そんな怒鳴り声に怯える様子もない渉は廃人のように三人掛け用ソファの一番端で体育座りをして縮こまっていた。 そんな渉の前へ温かなコーヒーを綾人が運ぶ。 「優一、ちょっとは優しくしてあげなよ」 どう見ても意気消沈で元気のない渉には冷た過ぎると綾人が口添えした。 「俺は綾ちゃんだけに優しくしたい。っつーか、綾ちゃんのその気遣いとか優しさを渉じゃなくて俺に向けて欲しいね!ぶっちゃけ金、土、日しか会えないのに最近は金曜は来ない。土曜も昼から。しかも日曜は昼飯食ったら帰るってどういうわけ!?」 「だって生徒会の仕事あるし、土曜の午前も日曜の午後も優一は大学や家の仕事で不在じゃんか。ここに居ても一人なら寮で生徒会業務したりざくろとお茶する方が有意義なんだもん」 お互いの時間のすれ違いに文句をつける優一に綾人が肩を竦めてしれっと言い返した。 なまじ本当な事に優一はバツが悪そうに視線を落として黙り込む。 二人の時間が明らかに足らなくてヤキモキしている自分と案外ケロッとしている綾人との温度差に優一はどんどん機嫌を悪くしていった。 だが、その不機嫌さを綾人へぶつける事も叶わない。 ならば…… 「っで!?何だよ渉‼︎?しょうもない話だったらただじゃおかないからなっ!!」 八つ当たり部隊とも取れる渉へ怒りの矛先を変えた優一は足を組み、綾人の淹れたコーヒーを飲みながら睨みつけた。 落としていた視線を上げて目の前に憤然と佇む優一を渉は見る。 紅茶色の髪と瞳 咲也と一緒だけど、醸し出す雰囲気は全くな別物だ。 だけど兄弟なだけあって品が良い雰囲気と身のこなし。自身満々で気の強そうなその瞳や物の言い方はとてつもなく似ていた。 優一に咲也の面影を感じた渉の涙腺は一気に緩んで、ダァーーーっと滝のように流れた。 「ぅわぁああ〜〜〜んっ!ゆう兄ぃーーー!!」 子供のようにギャンギャン泣き叫ぶ渉に優一と綾人が目を丸くする。 「ど、ど、どうしたの!!?」 こんな渉を初めて見た綾人はワタワタと狼狽える。 だけど、実質いつもヘタレで泣き虫だった頃の九流家三男の渉を知っている優一は格別動揺などしなかった。 むしろ、またかと額を押さえ、このように泣きついてくる渉の対処に慣れたように溜息と共に救いの言葉を掛けた。 「……なに?咲也にイジメられたのか?」

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