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第136話

「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉーーー!ゆう兄も綾ちゃんもなんか、勘違いしてないっ⁉︎俺、浮気とかしてないから!つーか、セフレなんて一人もいないし‼︎咲也と寝てからは咲也一筋なんだけど!」 優一と綾人からとんでもない誤解をされていると渉は手汗を握りしめながら大声で主張した。 「「………」」 その主張に二人は驚いたのか無言で見つめ合う。 「って、待てよ⁉︎なんか、咲也も同じようなこと言ってたっけ……?」 自分が優一と間違えられたショックが大き過ぎて渉は忘れていたが、咲也にも二人と全く同じような事を言われたことを思い出す。 「はぁ〜〜〜⁉︎なんで?なんで?俺ってばそんな風に思われてんの⁉︎こんなに咲也に尽くしてんのに⁉︎」 頭を抱えて大絶叫する渉に綾人が目を細めて口を尖らせた。 「それは渉君が咲也君を試したりしたからでしょ!っていうか、渉君、有名だよ?セフレの数は二桁台って」 「二桁⁉︎一人もいないのに⁉︎」 そんなデマを流した奴は誰だと渉が怒りでワシャワシャと頭を掻きむしった。 「咲也君、完全に誤解してるよ。それに加えて自信喪失してる。分かってるんでしょ?」 綾人の質問に渉が髪を掻きむしることを止めて真顔になった。 「優一への恋心が渉君へ移り変わった事に自分は軽薄な人間だって思い込んでる。それと神楽先輩……」 最後は口ごもるように濁した綾人に渉は優一を見据えた。 「二宮って、咲也に本気なわけ?」 「……まぁ。俺の了解得ようとしてる感じだし、遊びではなさそうだな」 渉からの問いかけに優一がコーヒー片手に答えた。 安心させるように真意を削げても良かったのだが、弟が傷付けられた事に多少なりとも腹立ちを感じていた優一は意地悪く神楽を当てつけた。 「そっか……。咲也はどうしたいのかな。綾ちゃん聞いてる?」 渉の弱気な言葉に綾人はフツフツと煮え滾らせていた怒りを遂に爆発させ、渉の頭を拳で殴りつけた。 「イッてぇ!!」 「こぉんの、ヘタレっ!!咲也君がどうしたいかじゃないだろ!?自分がどうしたいかじゃないの!?咲也君の事は傷付けても自分は傷付きたくないわけ!?安全な方へ先回りして逃げ道探すのやめなよ!」 顔を真っ赤にして怒りを露わにする綾人に渉は驚くも、言われた言葉に目が覚めた。 「咲也君は体張って渉君の想いについていこうってしてるんじゃないの?渉君にセフレがいても黙って耐えてんじゃないの!?あんだけゆーいちが好きだったんだよ?そのゆーいちと喧嘩までして渉君の手を取ったって事実を忘れないであげてよ!!無責任にもほどがある!!」 泣き出しそうなぐらい一生懸命咲也の為に声を張り上げる綾人に優一がありがとうと頭をポンポン叩いた。 「咲也に本気なら、もう答えはでたんじゃねーの?」 苦笑混じりに微笑んだ優一の紅茶色の瞳が一瞬、咲也を思わせ渉は胸が痛くなった。 頭の中は真っ白で自分の知らぬ場所で要らぬ疑いがかけられ、晴れてこそいないが、今は咲也を抱きしめにいかなければと思考が渦巻く。 あの日、自分への不満を吐露した咲也を部屋に置き去りにした事を渉は悔いた。 優一に間違えられたショックなどより、咲也の心の膿を優先的に対処してやらねばいけなかったのだと反省する。 そう心を入れ替えた渉は急いでマンションを後にし、咲也のいる寮へと走った。

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