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第137話
「咲也……」
優しく名前を呼ばれ、いつの間にか眠っていた咲也はゆっくりと瞳を開いた。
目の前にいるのは、先ほど電話をくれた神楽で咲也は驚きに息を呑む。
「え……、ど、どうして?」
さっき掛けて来られた電話に自分は出ていない。出るか悩んだのだが、アレコレ色んな事を考えていたら電話のベルが鳴り止んだのだ。
残念に思う気持ちと、何処か安心する感覚に咲也は着崩れた制服を着治し、上体を上げて座った。
気持ちを鎮めて携帯電話を握りしめ、何度も渉へ電話を掛けようと試みたが、勇気が持てずに断念し、気が付けば眠ってしまっていたようだ。
「お前の声が聞きたくて電話掛けたけど、出ないから顔見に来た」
柔らかな笑顔で告げてくる神楽に咲也の心は罪悪感で暗くなる。
「……すみません。俺…」
やっぱり渉が好きですと伝えようとした時、それを阻止するかのように神楽が覆いかぶさってきた。
ベッドの上に組み敷かれ、心臓が逸る。
「まだ俺のこと振るなよ。三男同様、利用して、見定めてから判断を下してくれ」
苦笑混じりの願いに咲也は困惑しながら瞳を晒した。
兄から心変わりして、渉の事が好きなのに神楽へ体を許そうとしている汚い自分が嫌で仕方ない。
そして、上手く断れない自分と断ることを許してくれない神楽に心の重石がまた一つ加わった。
自分勝手だと分かっている。
だけど、早く楽になりたい。
神楽へきちんと断って、渉に振られ、兄に罵倒されたら、またいつもの自分へ戻れるように感じている咲也はこの状況下が苦しくて仕方がなかった。
「俺……っ!」
再度口を開いた瞬間、神楽の手が自分の胸元を撫でてきて咲也は身を固めた。
「体の相性、試してみる?」
イタズラっぽく聞いてくる神楽に咲也の目の前が真っ暗になった。
別にどうなってもいいか……
諦めと言う名の自暴自棄に陥ってきた咲也は手足の力を抜いた。
渉との関係はもう修復は不可能だと諦めている。だったら、神楽の想いに一度ぐらい付き合ってやってもいいかもしれない。
「好きにしていいですよ…」
「投げやりになってるみたいだけど、俺はチャンスと思ってお前を抱くよ?据え膳食わぬは男の恥だからな」
手を引くなんて思うなと牽制してきた神楽がおかしくて笑ってしまった。
「俺、どんなに体の相性良くても神楽先輩とは付き合いませんよ。だって……」
咲也の言おうとする言葉の先が読めた神楽はその台詞を封じ込めたくて、唇と唇を合わせた。
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