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第139話

「俺は渉のこと振ってない!まだ付き合ってる!!渉にセフレがいても耐えるって……」 眼鏡を取ったからか、涙が溢れてくるからか、視界が悪いなか、咲也は渉を必死に見ながら言葉を募った。 「耐えるって思った……。耐えてみせるって。でも……」 涙を濡らす紅茶色の瞳が苦しいとキツく瞳を閉ざす。 顔を俯かせた咲也は小さく震えながら、小声で願いを告げた。 「無理そうだ……。辛すぎて苦しすぎて……。だから……、俺のこと振って…」 願いを囁くように顔を両手で覆って泣く咲也に渉と神楽が息を呑んだ。 場の空気が凍りついているのが分かる咲也は早くこの苦痛な時間が終わるのを心から祈る。 それと同時に渉との時間を思い出した。 兄が好きだと泣きついたあの夜、渉は自分を兄と想えと、俺を抱いた。 悲しさと幸せにさえなまれたが、心の均等が保たれた。 何度か体を合わせるうちに、渉に想いをぶつけられて困惑した。 それと同時に嬉しさと恐怖が生まれた。 渉が自分だけのものという優越感と大事な幼馴染みを失う怖さ。 気がつけば兄から渉へと気持ちが移り変わり、己の気の変わりように恥を感じた。 側にいるべきなのか、離れた方がいいのか悩んでいたら、渉に愛想を尽かされ他所に気持ちを取られてしまった。 不甲斐ない自分が蒔いた種と思った。 他所に向く渉に不満を溢す事なく、側にいようと思った。 だけど…… 一度知った甘い幸せと言う名の蜜はとても甘美過ぎたのか、自分は強欲になっていた。 兄の時のように耐えるいう事しか知らなかったあの時の自分なら良かったのだろう…… 心と体に溺れるほどの愛を好きな人に教えられた今、もう『耐える』という事が出来なくなってしまった。 だから…… 「渉が好きです…。他の人のとこに行って欲しくない……。俺だけを見てて欲しい……」 それが無理なら…… 「お願いだから……、俺のことちゃんと振って…」 顔を覆った手を離し、涙を拭って咲也は真っ直ぐ渉を見据えて言った。

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