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第141話

side 咲也 相変わらずヘタレだな…… 渉の大きな体が震えていて咲也はその背中を力を込めて抱き締めた。 兄様ならきっとこんな風に震えたりしない きっと、悠然と微笑んで抱きしめてくれる。 きっと、どれだけ不安でも表に出さない。 きっと、自分の想いは半分で相手の気持ちを全部引き出すんだ。 兄ならばと頭の中で考えてしまう自分に笑みが溢れた。 兄を越えると誓う渉が馬鹿らしくておかしい 兄様を越えられるわけがないのに… だけど、その心意気は自分への愛情だと思うと嬉しいとも思えた。 セフレ云々はよく分からないけど、俺の事が好きな気持ちが伝わってきて素直に嬉しい。 素直に…… 『ちゃんと素直に互いの気持ちを伝え合おう』 今が素直になる時なのだと、思った。 思うけど…… 「………渉…っ…」 気持ちを伝えることに不慣れな咲也は言い表されない恐怖に言葉を紡げなかった。 口を開けばまた悪態ついてしまうかもしれない。 好きなのに素直に表せれない 今も頭の中で兄を考えるように、また兄と渉を比較するような事を言ってしまいそうで怖かった。 不安から渉に抱き着く力を強めると、そっと頭を撫でられた。 「優兄と比べてもいいよ」 少し体を離して優しく微笑む渉からは不安を感じることはなく、むしろ頼もしく感じた。 自分の頬を撫でる指先はもう震えていない。 「咲也の思ってる事、聞かせて」 黒く強い眼差しに自分の姿を映すと、咲也はその優しい言葉に背を押され、閉ざしていた口を開いた。 「お、俺は……、俺は兄様が好き。一緒にいると安心するし、楽しいし、かっこ良いし……」 「うん」 「いつも冷たいけど、なんだかんだ言って優しい。ちゃんと俺の事、考えてもくれるし守ってくれる」 「うん」 「兄様は特別なんだ。何でも出来て、賢くて……」 兄の事をここまで言うと、咲也の瞳からじわじわと再び涙が浮かんだ。 違うっ! 兄様じゃない! 何故か兄への告白になっていて咲也は訳が分からないと混乱した。 このままじゃ、また渉に嫌われる 呆れられて他の人のとこへ行っちゃう… 「優兄は賢くて……何?咲也の思ってること、俺に伝えて?」 黙ってしまった咲也の顔を渉は覗き込みながら優しく続きをただした。 そんな優しさと包容力に咲也の涙がポロポロと落ちていく。 伝えたい 自分の想いを 自分の気持ちを 咲也は震える指先で渉の服の裾を掴むと目をキツく閉じ、息を吸って震えた声を隠すように大きな声を上げた。 「好きっ!兄様が大好きっ‼︎だけど、だけどっ‼︎…そんな兄様より渉の方がもっと好きだ‼︎」 目を開き、涙で歪む視界のなか、咲也は渉の瞳を見て思いを告げた。 「兄様のこと、越えなくていい!今のままの渉でいいっ!好きだから……、こんな風に俺の嫌なとこ全部受け止めてくれる渉が好き…。他の人のとこ、行かないで!遊びでも他の奴を触って欲しくない!俺も兄様のこと、できるだけ口に出さないようにするからっ!考えないようにするからっ!努力するからっ‼︎」 あの日、自分を抱こうとした渉に兄を呼んでしまった事を咲也はずっと謝りたかった。 渉のことしか考えてなかったのに、何故か口から出た名は兄で、自分は自分が思う以上に兄に依存している事を思い知った。 渉が好きならそれはきっと改善しなければいけないことだと思う。 もっと意識を向けて、今後あんな事がないように気をつけようと思った。 そう心に誓った時…… 「そんな努力しなくていいよ」 渉から返ってきた言葉に咲也は目を見開く。 「咲也が優兄のこと、どれだけ好きだったかって知ってるから…。それに自慢の兄様だろ?お前の筋金入りブラコンが治るなんてぶっちゃけ思ってないよ。何年側にいると思ってんの?そんな努力無駄だって。だから……」 そのまんまのお前でいい。と、耳元で囁く渉はベッドの上へ咲也を押し倒した。 side 咲也 終わり

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