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第8話
六本木にあるクラブダイア。
明日を休みに控えた若者達で賑わい、ホールは外の寒さが恋しくなるほどの熱気に包まれていた。
平日とは異なり全ブースが埋まったVIPルーム。
その最奥を陣取るのは常連の男達だ。
対になった3人がけのソファー。
奥の右端に座る橘海斗は、向かいに座る森山大和をジト目で見やりながら言葉を放った。
「で、何?大和もそいつらと一緒になって未來君に話しかけずにいるつもり?」
「え?いや、別にそんなつもりはないけど」
今にも噛み付いてきそうな目で自分を見てくる海斗に、少したじろぎ大和は答える。
「でも悩んでんだろ?」
そんな大和にそう突っ込んできたのは、大和の隣、ソファーの真ん中に座る金髪の短い髪をつんつんに立たせた筋肉質でヤンチャそうな顔立ちの男、こと高村光太郎。
「まぁ~、それはそうっすけど…」
光太郎の問に大和は歯切れの悪い返事で返すと
「じゃぁ同じじゃんっ。最ってー。そーいう僻み根性ってまじうざいっ」
「はぁっ?!別に俺は僻んでなんか」
「どこがっ?僻んでなかったらなんで無視しようとすんのっ?理由はっ?」
「っ、いや、それは何て言うか…」
間髪入れず畳みかける様に文句を言ってくる海斗に、その勢いに押され、大和はまともに自分の意見すら言わせて貰えない。
が、しかし自分は別に無視するとは一言も言っていないし、そもそもそんな事するつもりもない。
悩んでいるのはそこではなくて、どうしたらstudentsの皆が未来を受け入れられるかなんだが、それを上手く説明出来ずに口をもごもごさせていると助け舟が出される。
「まぁ~まぁ~。そんなきゃんきゃん言うなよ。そりゃお前話しかけにくいだろ?周りがそんな空気だったら大和だってさ~」
海斗の隣りに座る相澤旬が、興奮気味の海斗を宥める様にそう言った。
そしてさらに大和へのフォローは追加される。
「そうだよ。それに一番古株の大和まで、大和から話しかけたりしたら余計周りはいい気分にならないと思うしね」
光太郎の隣りに座る赤茶色の顎程の長さの髪を、ふんわりとセットさせた華奢で小柄な中性的な男、こと内村拓海は、大和の微妙な立ち位置に彼が悩む気持ちは十分解るなと思いそう言った。
そしてそんな拓海の容姿に似合う柔らかな物言いに、未だ唸ってはいるが海斗のボルテージも下がっていく。
「でも、可哀想だよな。贔屓されてる性っちゃ性だけど」
「そうだね」
贔屓されればその恩恵も大きいが、反面周りからのやっかみも大いに受ける。
旬や叶多と同じグループ、Lusterの一員である光太郎と拓海も、それらの試練は一通り今までに経験してきた。
仕方のない事だとは思うし、それは乗り越え無ければならない壁でもあるが、しかし同情するには十分値するだろうと2人は思う。
「っつかさ、何でわざわざstudentsスタート?別にそのままデビューでよくね?だってネームバリューも話題性だってあるんだからさ」
今まで会話に入る事無く、興味無さげに黙りしていた旬の隣に座る神谷叶多は、突然話題をころりと変えて自分の中の疑問を口にした。
「確かに。あの天才子役の待望の復活っ!っとかって絶対騒がれるだろうしな~」
そう叶多に同調したのは光太郎。
そしてすっかり怒りの治まった海斗もまたそう思った。
「そだよね。何でだろ?」
悟が何故未来をstudentsに入れたのか。
そもそもstudentsになんかいれるからこういったややこしい事態を招いたのではと皆は一様に思ったのだった。
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