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第31話
教室での撮影が一段落し、次の撮影が始まるまでの間。
本来なら待機室で過ごしていた未来だったが、隙あらば百花が話しかけてくるのが煩わしくて、男子トイレに身を潜めていた。
「はぁ~っ」
手洗い場の縁に両手を置き、未来は盛大なため息を吐いた。
疲れた。撮影ではなく勿論百花に。
あれから何度もタイプを教えてくれとせがんできた百花。
未来は何度もそんなのは特にないと答えているのに、中々理解してくれない彼女にはほとほと嫌気を感じてしまう。
そもそもここは仕事場だ。
勿論役者間でコミュニュケーションを取るのも大事だが、あぁも浮き足立たれると、何しに来てんだと思わずにはいられなかった。
百歩譲って遊び半分にしても、ギャラを貰っている以上もう少し意識を高くしてくれないと、こちらのやる気も下がるんだけどと、未来が思っていた時。
「気に入られちゃったみたいだね。野村さんに。流石モテるね」
トイレの入口付近の壁にもたれながら、そう未来に言葉をかけたのは斗亜だった。
「斗亜君。はぁ~っ、全然嬉しくないけどね…」
未来は鏡越しに斗亜の姿を捉えると、苦笑い混じりに答えた。
「へ~、そう?そんな風には見えなかったけど?ちゃんと彼女の話に付き合ってあげてたから、てっきり君にもその気があるのかと思っちゃった」
意外だと少し瞳を大きくして言う斗亜に、未来の瞳はもっと大きくなる。
「はぁっ?ないよ。僕恋愛とか興味ないし。だけど無視なんて出来ないでしょ?これからまだ一緒にやってかなきゃいけないし、それに女の子だし」
自分の対応は至って普通だと未来は思う。
が、斗亜にはそうは見えなかった様で。
「ふ~ん。意外と優しいってかフェミニストなんだね」
「いや、当たり前だよ。男なんだから」
女の子には優しくしなさいと、常日頃からありさに口酸っぱく言われているし、言われなくとも優しくしなきゃと未来は思う。
「はははっ。そうだね。でも、その気がないなら思わせ振りな態度はしない方がいいよ?」
「え?」
思わせぶりな態度?
そんな物を自分がしたつもりは更々なくて、未来は思わず言葉を聞き返した。
「女の子ってさ、自分に都合のいいようにしか物事解釈しないから。それに、あんまり優しくしちゃうと後が怖いしね」
「は?後が怖い?」
優しくし過ぎると怖いとはどういう意味なのか未来にはさっぱりで、やはり斗亜の言葉を繰り返す事しか出来ないでいると。
「そう。君のポリシーなのかもしれないけど、程ほどに、しといた方がいいよ?」
くすっと妖艶な笑みを浮かべて言う斗亜に、思わず未来が綺麗な顔だなと思ってしまうがいや違う。
今は斗亜の顔などどうでもいい。
と言うか自分としては百花には、最低限の優しさしか向けていないつもりでいた。
それはフェミニストなんて表現からは程遠い、ここが日本でなくアメリカだったら、自分のこの態度では完全に非難されてると思う程で。
もっと冷たくすればいいと、斗亜が暗に言っているのは未来も分かるのだが、それは何だかなぁと気が進まないと思い、また一つため息をついた。
※※※
合同レッスンのお昼休憩中。
未来がサンドウィッチを頬張っていると、七瀬が話を振ってきた。
「でもさ~、ドラマ年近い奴が一緒で良かったな。待ち時間とか暇しなくてすみそうだし」
先程まで未来からドラマ共演者の事を聞いていた所で、七瀬がそう話を続けたのだ。
「え、あ、あぁ。そうですね」
未来は七瀬の言葉に曖昧に笑って返す。
確かに同じ年頃の子らがいた方が話は合ったりするが、しかしその反面厄介な事になりそうな予感がすると、未来は百花の事を思い浮かべた。
「ってか女の子もいるんだよね?可愛い子いる?」
「まぁ、そうですね。皆可愛いと思いますよ?」
弾む様な声で聞いてくる健太に、未来は共演者の同年代の女子二人を思い浮かべ答えた。
それぞれに別な理由で苦手意識を感じていた未来だったが、百花も優香も一応女優なわけで、見た目は整っていると言えた。
「まじ?良いじゃんっ。良いなぁ~。俺も可愛い女の子とドラマとか出たいっ」
恍惚とした表情を浮かべ、七瀬が羨ましそうにそう話すと。
「だよなぁ~っ。俺もっ。もしかしたらもしかしちゃうかもだしなぁ~っ?」
「確かに~っ。なんかあったら教えてね?未來」
蒼真と健太もきらきらとした瞳でそう続き、そして未来に意味ありげな笑顔を健太は向けた。
「え?何かって?」
しかし健太の言わんとした事は未来には伝わらず、きょとんとした表情を浮かべ小首を傾げた。
「そんなの告られたり付き合ったりしたらに決まってるじゃんっ」
皆まで言わせるなよ、と言う面持ちな健太に、未来は瞳を大きく開いて手のひらを左右にぶんぶんと振った。
「えぇっ?そんなのないですよっ。僕恋愛とか興味ないですしっ」
寧ろそんな展開は全く望んでないまであると思う未来だが、その気持ちは七瀬には伝わらなかった。
「またまたぁ~。そんな事言って~。大丈夫、言いふらしたりなんかしないからさ」
「いや、そこは別に信用してますけど…」
自分の否定を違った意味で捉えた健太に、未来は眉根を下げてそう答えた。
「でもね、未來。女の子って面倒臭いから、簡単に付き合ったりなんかしちゃ駄目だよ?後々後悔するから」
今まで会話に入る事無く傍観していた綾人が、そうおもむろに口を開いた。
他の三人とは違い、浮かれた様子なく未来に言い聞かせる様に綾人は話した。
「まぁ、確かに。それは言えてるな。それに未來は可愛いんだから、相手はちゃんと選ばないとだし」
すると蒼真もそんな綾人の台詞に同意し、少し真面目な表情で未来に向き合った。
「そうだね。だからなんかあったら絶対相談してね?俺らがその子が未來にふさわしいかどうかジャッチしてあげるから」
「はぁ…」
ウィンクしながらそう言ってくる健太に、未来はとりあえずの返事をするが、ジャッチって何だそれはと心中で思った。
「いいね、それ。そんでそのついでに、その子にも友達連れてきて貰えば一石二鳥じゃね?」
「間違いないっ!未來っ、宜しく頼んだっ!俺の未來はお前にかかってるっ!」
健太の言葉に閃いたと声を弾ませる七瀬に、蒼真の興奮も高まり、彼らは未来の目の前で両手を合わせて拝んでまできた。
そんな三人の異様なテンションに戸惑いながら、訳がわからずまたもとりあえずの返事をするも、何を皆から自分は頼まれたのか未来はさっぱり分からないでいた。
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