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第32話
次の日の学校。
お弁当を平らげた未来と琉空は、残りの休み時間をまったりと過ごしていた。
未来は暇つぶしに、昨日の合同レッスンでの自分の疑問を琉空に話してみると。
「いや、どういうって、そんなの女の子紹介してねって意味に決まってんじゃん」
少し呆れた様な面持ちで、琉空にそう断定的に答えられるが、未来としてはやはりそれも疑問でしか無かった。
「紹介?何で?何の為に?」
「何のって、そりゃお前、可愛い女の子と仲良くなりたいって男なら普通思うだろ?じゃない?」
何を当たり前の事を聞いてくるんだと琉空は思うが、しかしどうやら未来は普通では無かった。
「え?そうなの?僕は思った事ないんだけど」
瞳を丸くして言う未来に、琉空は思わず言葉を詰まらせた。
「っ、あ~そっ。でも普通は思うのっ。お前はそんなん思わなくても可愛い女の子が勝手に寄ってくるかもしれないけどっ、普通の健全な男はな、どうやったら可愛い女の子と出会い仲良くなれるかを日々考えてんだよっ」
未来に悪意はないのかもしれない。
しかし選り取りみどりな恵まれた未来の状況に、なんとも腹立たしく琉空は感じてしまい、どうしても語尾が強くなった。
「え~、嘘でしょ?そんなん毎日考えるような事?何でそんな女の子と仲良くなりたいの?」
琉空の力説虚しく、未来には心底理解不能だった様で、彼の眉間には少しばかりの皺すら寄っている。
「何でって、そりゃお前、仲良くなったら付き合って貰えたりするかもしんないだろ?したらさぁ~…」
何を言っても何で何での繰り返しの未来に、琉空は先程まで感じていた苛立ちよりも、呆れの方がまさってきた。
「?したら?何?」
「何ってそんな、言わなくても解るだろっ?」
僅かに頬を染めながら言う琉空に、未来は相変わらず困惑の眼差しを向ける。
「え?いや、ごめん。解んないから聞いてるんだけど。付き合ったら何なの?」
「っ、何なのってっ…。お前、まじで言ってる?」
嘘をついている様には見えない未来だったが、しかしここまで恋愛話が通じないなんてありえないと、琉空はまじまじと未来を見つめ、冗談だと言ってくれと思いながらそう聞いた。
「??まじだけど、何で?」
「うっそ、まじで?」
思い届かず、はてなマーク満載な未来に、琉空は瞳も口も大きく開き驚いた。
確かに未来と恋愛話など今まで一切しなかったし、何となくそういう話は疎そうだなとは思っていたけど、ここまでとはと琉空がある意味感心していると。
「だからまじだって言ってるじゃんっ。なんなのも~っ。早く教えてよっ」
琉空の純粋な驚きを、勿体ぶって話さない様に感じた未来が痺れを切らして苛苛とせっつくが。
「いや…、えっと…、何て言うか…、あっ、そうっ、したら楽しいっ、そう楽しいじゃんっ?」
あまりにも無知な未来に、本当は言おうとしていたキスやらエッチやらな単語を、琉空は何だか言うのが憚られ、咄嗟に出てきたワードがそれだった。
「は…?楽しい…?」
怪訝な表情を浮かべ言葉を繰り返す未来に、琉空は何故だか分からないが焦りを感じてしまう。
「そっ、そうなのっ。お前は女の子と付き合った事ないから解んないかもしれないけど、そういうもんなのっ」
口早にそう琉空に言われ、確かに自分は経験がないのでそうと言われればそうなのかと未来は思うしかなかった。
だがあれだけ質問に質問を繰り返しといて琉空には悪いが、やはり自分には琉空の言い分はどれ一つ理解出来なかった。
しかし解らない事を考えても仕方ないと、未来は気持ちを切り替えた。
そもそもそんな事より次は斗亜と二人での撮影が始まる。
だから、他事考えてる暇があったら、しっかり予習をしておかないとと未来は思ったのだった。
※※※
学校帰り。レッスンへ向かう道すがら、未来は改めて台本を読み直した。
斗亜とのシーン。
流れも台詞もまずまず出来そうだと思うが一箇所、未来には解らない所があった。
しかしその言葉の意味を〝大輝〟も解っていないので、自分が解らなくても演技に問題がないと言えばないんだが…。
でもなんか気になると、未来がそう思いながら更衣室のドアを開けた先に、丁度大和がいたので。
「あ!大和君、おはようございます。あの、ちょっと教えてほしい事があるんですけど…」
「おはよう。教えて欲しい事?何?」
小首を傾げ聞いてくる大和に、未来は台本を片手に話し出した。
「あのですね……」
「…え~っと…。ん~…、あのな、未來、え~っと、それはつまり…」
未来の話を聞いた大和は、なんと答えるべきかを迷っていた。
斗亜演じる転校生の郁也が中々周りと馴染めないでいた所、それを気にかけた大輝が何かと彼を構うのだが、あまり人と接する事を好まない郁也は、大輝を避ける為に言った台詞の中に未来の解らない箇所があった。
“俺そういう趣味はないから。話しかけてこないで”
このそういう趣味の人の趣味って何ですか?
それが未来の質問だったのだが、大和はまたえらい質問してくんなと、予想外すぎる内容に苦笑うしか無かった。
しかしどうしたものか。
なんと言って教えれば、いや、普通に教えればいいんだろうが、でもなんだかダイレクトに教えるのは憚らる。
いやでもな、いやいやでもっ…と、大和が脳内で思考を巡らしていると。
「?あの、大和君?」
中々答えを言わない大和に、未来が催促の意を込めて名前を呼んだ。
「あっ、えっと、未來っ。ちょっと待ってっ。ちょっと待ってなっ」
大和は狼狽えた。
真っ直ぐに、なんの曇もない綺麗な瞳を向けてくる未来に、なんと説明するのが正しいのかが解らなかった。
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