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第33話
レッスン終わりのその足で、クラブダイアに来ていた大和は、先程の未来との会話を海斗・旬・叶多の三人に話していた。
「え、それで教えたのっ?未来にそういう趣味ってのはゲイの事だよってっ」
僅かに眉間に皺を寄せて、神妙な面持ちでそう聞く海斗に、大和は首を左右に振って答えた。
「いや、教えてねぇよ。教えといた方が今後の未來の為にもいいし、教えなきゃとも思ったんだけど、でもなんか言いずらくて…」
大和は未来の濁りのない純粋な瞳を思い浮かべながらそう言うと、海斗はその答えに安心しながら大きく頷いた。
「だよね~。俺もちょっと教えれる自信ないな」
「だよなっ?つかそれにまだ早いよなっ?未來にそういう知識はさ」
海斗の同意を得た大和は、自分の対処は正しかったのだと、自分の中の靄が晴れていくのだが。
「いや、全然早くねぇだろ。寧ろ知らない方がレア。子供ったってもうすぐ中1だろ?そんくらい知ってていい年じゃね?」
叶多の反論によって再び大和の頭の中は陰りだす。
「っ、それは確かにそうかもしれないですけど…」
叶多の言う通り、自分に置き換えたら未来の年頃にはそういった知識は一通りあった。
だから話したってなんの問題もないのも解る。
解るのだがしかし、真っ白な紙を汚してしまう様な感覚に大和は抵抗を感じずにはいられなかった。
「ってかそれならそれでさ、やっぱちゃんと教えて自分でも気を付けさせた方がいいんじゃない?だってこの業界そっちの趣味の人も、アブノーマルの人も多いってかそんな奴ばっかじゃん?俺が言うのもなんだけどさ」
大和のもじもじした気持ちを察した旬が、気持ちは解るがだからこそだとそう話すも、大和の抵抗は中々固かった。
「そうですけど。でも未來はまだ小学生ですし…」
「いやだからっ、4月からは中学生になるんだろ?それに、そもそも変態に年は関係ねぇよ?」
瞳を左右に動かし動揺顕な大和に、叶多がすかさず突っ込んだ。
「そうそう。嫌な思いさせる前に、気を付けさせといた方がいいんじゃね?」
叶多に続いて旬もそう援護射撃を打つと、やっと大和の
気持ちが傾き出した。
確かに無知では気をつけ様もない。
自分の要らぬ気遣いのせいで、何も知らない未来が傷つく様な事になってはならない。
大和は次のレッスンの時には、一から十までしっかりと説明しようと心に決めたのだった。
※※※
湯気が立ちこむ浴室。
たっぷりと湯の張った浴槽に浸かっている寛也は、湿った髪から滴り落ちる雫を軽く拭いながら、その手で自分の目の前に座る未来の腕を優しく掴んだ。
「未來…、細いな。肌も白いしすべすべ…」
そう感嘆しながら、細められた瞳でじっくりと未来の腕を見つめる寛也。
「え、あ、寛也、君っ…」
食い入る様に自分に視線を向ける寛也に、未来は裸であるこの状況下で、恥ずかしさからふいと目線を背けた。
「未來…」
湯に浸かっている為か、それとも羞恥のせいか、薄らと朱に染った未来の頬に、寛也はそっと手を這わした。
「あ、ひろ、やくん…」
少しのぼせかけた潤んだ瞳で、不安気に自分を見る未来に、寛也はくすりと笑って両の手で彼の頬を包み込み、そして自身の元へと引き寄せていった時。
「準備できたぁー?入浴シーン始めていい?」
がらりと折戸が開かれ、ADの拓也が二人に声を掛けた。
「はぁ~い」
「宜しくお願いしま~す」
いつでも始めてくれて構わないと、未来と寛也は笑顔でそう答えた。
「ってか顔赤いから熱あるのかと思ったけどのぼせてただけか」
引き寄せた未来のおでこに、こつんと自分のおでこを付けた寛也は、未来の体温が平熱だった事に安心した。
「だってお湯熱すぎですもん」
早く出たい。むしろさっさと撮影を始めて欲しい思う。
未来は少しでも自分の熱気を冷まそうと、冷たい水を蛇口から出してタオルに湿らせ頬にあてた。
「そうか?いい湯じゃんか。俺はもっと熱くても平気」
ざばりと肩まで湯に身を沈ませ、気持ちよさそうに瞳を閉じて寛ぐ寛也。
かれこれ10分近く湯に浸からされているというのに、よくまだいい湯だとか言えるなと、普段基本シャワー派の未来は彼の行動に苦笑いを浮かべた。
そして既にまた暖かくなってしまったタオルを水に浸しながら、本当に早く撮影始めてくれないと熱が出てきそうだと未来は思った。
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