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第34話

浴室での撮影を終えた未来と寛也は、脱衣場で着替えを済ませていた。 「はぁ~っ、さっぱりしたぁっ。ホテル帰って風呂入る手間省けてラッキー。あ、未來。お前髪べたべたじゃん。ちゃんと乾かさないと風邪引くぞ?」 既にドライヤーで乾かし終えている寛也は、まだタオルドライしかしないで濡れた髪のままでいる未来に、ドライヤーを手渡しながらそう言った。 「あ、は~い」 鏡の前でドライヤーのスイッチをONにして、髪を乾かし始めた未来は、先日のレッスンの時の事を思い浮かべていた。 あの時何で大和は自分の質問に答えてくれなかったのだろうか。 大和の雰囲気的に絶対に解っていた筈だ。 それなのに何故はぐらかしたのか、未来は腑に落ちなかった。 「み~らいっ。お前全然手が動いてねぇよ?乾かす気ある?」 ドライヤーを髪に向けているものの、一箇所のみにしかその風は当たっておらず、その様子では全体が乾くのにはさぞ時間がかかるだろうと、見かねた寛也が口を出した。 「え、あ、はい」 寛也の声掛けにはっとした未来は、おもむろにドライヤーも手も動かし始める。 しっかり乾かせよ?と、未来がまた動きを疎かにしないか見守っている寛也に、未来はそうだ、寛也ならちゃんと答えてくれるかもしれないと思いついた。 「あ、ひろやく」 「寛也~っ、ちょっといいかぁ~?!」 が、丁度スタッフの声が被さり寛也には未来の声は届かなかった。 「あ、はぁいっ。今行きまぁすっ。ちゃっちゃと終わらせろよ?」 「うわっ」 未来の髪をわしゃわしゃと掻き乱した後、さっさと脱衣場を出て行く寛也。 呼び止める隙もなかった彼の後ろ姿を、未来は呆然と見つめた。 行ってしまった。 未来にとって寛也は最後の頼みの綱だった。 明日は斗亜との撮影がある。 それなのに自分はまだ台詞の意味を理解出来ていない。 どうしようと、焦る気持ちの中、しかし大輝も解っていないので問題ないのかもとの思いも浮かぶ。 いやしかし、でも、あ~っ、もうっ! と、頭の中で葛藤した後、未来は腹を括った。 一番頼りたくない相手だったが、もはやこれが本当に最後の頼みの綱だと、その元へ向かったのだった。 ※※※ 「へ…?同性、愛者…?」 1番頼りたくない最後の頼みの綱な相手=斗亜の部屋にて、未来が大和にした質問と同じ事を斗亜に聞くと、予想外な答えが返ってきた事に未来は驚き、瞳と口を丸く開けてしばし固まった。 「うん。そうだと僕は思うけど?」 自室のベッドの上に、足を組み座る斗亜は、そのすぐ脇に置かれた椅子に座る未来に向かってそう言った。 「成る程…。そっか、そうなんだ。そっか、ゲイの事だったんだ」 斗亜の答えに納得するも、しかしそれは趣味というか趣向と言うのではないのかと、その言い回しに少し疑問に思うも、だがどちらも似たような意味かと未来が思っていると。 「でも、そんな事君が解らないなんてちょっと意外だな。結構お子様なんだね」 くすりと笑って言う斗亜に、未来は不快を顕に眉間に皺を寄せた。 だから嫌だった。 絶対馬鹿にされるって思ったから、斗亜には頼りたくなかったのだ。 「興味がない事だったからだよっ。そんな趣味もないしっ」 それは決して疎いからと言うわけではない事を、最大限アピールする為に未来はそう言い放った。 「ふ~ん、そう。あ、でもね、ついでに教えといてあげるけど、この業界ってそういう趣味の人多いよ?だから君も知ってるもんだって思ってたんだけど」 幼い頃から業界に身を置いていた未来なので、そう言った知識は豊富だろうと勝手に思っていた。 が、そうでは無いようで、今もきょとんとした顔でこちらを見てくる未来に、自分も含め大概ませガキになるというのに、珍しい子役も居たもんだと斗亜は思う。 「だから、君にその気はなくても少し気を付けといた方がいいかもね」 「は?気を付ける?」 柔らかい笑みを向けてそう言ってくる斗亜。 しかし未来には、彼が言う気をつけるとは何のことだか分からず疑問符を浮かべた。 「うん。特に大人は騙し方が上手いから。まんまと騙されて、そっちに引きづり込まれないように気を付けなきゃ駄目だよ?」 優しい口調で未来を諭す様に言う斗亜に、未来は苦笑いを浮かべ、とりあえずのありがとうを口にしたものの。 いやいや、有り得ないだろうと未来は思う。 いくら上手く騙されたからって、それこそ自分にそういう趣味は無いのだから、引きづり込まれる前に関わらない様になんていくらだって出来るだろうと、そう未来は思った。

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