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第36話

簡易待機場にて、百花に貰ったクッキーを食べていた未来。 味はとても美味しい。 美味しいのだが美味しくなく感じてしまうくらい、未来は百花の事を既に煩わしく思っていた。 もそもそとクッキーを頬張る未来の横に、どかりと座ったのは寛也で。 「まじで積極的だなぁ~、百花ちゃん。全部ハート型だし。やるなぁ~、未來。ってかど~すんのっ?いや、どうなってんの?まさかもう付き合ってるとか?」 ニシニシと嫌な笑みを浮かべながらそう聞いてくる寛也に、未来は思わず腰を上げた。 「っはぁっ?!いや、付き合ってなんかないですよっ。告白とかもされてないしっ」 されなくとも百花の気持ちは十分解るのだが、しかしまだされていない事が未来にとって唯一の砦だった。 「告白っ。なんか良いなぁ~っ、いい響きっ!お前、付き合うとかになったらちゃんと教えろよ?兄ちゃんが色々アドバイスしてやるからなっ」 小中学生の恋愛に告白はとても重要だった事を思い出し、寛也はその響きも行為もなんだかとても新鮮に思えて、少し興奮気味にそう未来に迫った。 「は?アドバイス?いや、だからなりませんから絶対にっ」 「何で?そんなの解んねぇじゃん?あ、つか取り敢えず、告白されたりしたら教えてな?解った?」 がばりと未来の肩を抱き、寛也はそう念を押して未来に言い聞かせると、軽快な足取りで未来の元を去って行った。 未来はそんな寛也の後ろ姿をジト目で見つめながら、何でそんなプライベートな事をわざわざ寛也に話さなければならないのか。 それに話してもどうせからかわれるだけなのは分かりきっている。 そんなのはごめんだと、未来が寛也には何があっても絶対に話さない事を心に誓っていると。 「あ、未來く~ん。クッキーどうだった?」 ひょこりと現れた百花に、未来は少し驚いた表情を浮かべながらもその問に答えた。 「え、あ、あぁ、美味しかったよ」 ふわりと柔らかい笑顔を意識的に作りながら未来がそう言うと、百花も綺麗に笑って弾む声を出した。 「本当?嬉しいっ。未來君甘いもの好きって聞いたから、私頑張ったんだ。良かった。喜んでもらえてっ」 「はは、そうなんだ。ありがとう」 とりあえずのお礼を口にしながらも、内心は頑張られても困ると思う未来のそんな本心など露知らず、百花は相変わらず嬉しそうに未来の隣に腰を下ろした。 「どういたしましてっ。また作ってくるねっ。あ、そういえばさ、もうすぐだね。あのシーンの撮影」 「?え?あのシーンって?」 何故か少し恥ずかしそうに自分に視線を送ってくる百花に、未来は頭の中に疑問符を浮かべた。 「え~、そんなの決まってるでしょ?私と未來君のキスシーンに」 ピンクに染まった頬を両の手で包み、百花はそう言って未来を上目遣いで見つめた。 「あ~、キスシーン…。っても本当にする訳じゃないじゃん。振りでしょ?」 それなのにそこまでテンションを上げられるものなのかと、変わった子だなと思いながら未来がそう言うと。 「未来君、遠山さんからまだ聞いてないの?振りじゃなくて本当にする事になったんだよ?」 「え?」 百花の台詞に未来は思わず言葉を詰まらせた。 振りじゃなくて本当にする? と、未来の頭の中でその言葉が繰り返される。 「だからその、えっと、私は凄く嬉しいんだけど、あの、初めてだから、宜しくね?」 もじもじとやはり恥ずかしそうに、再び自分を上目遣いに見つめてくる百花に、未来はしばし固まった。 ※※※ 百花からのとんでもない情報を得た未来。 その真偽を確かめる為に遠山の元へ向かい、単刀直入に話を切り出した。   「あれ?言ってなかったっけ?」 おどけたような声と表情の遠山に、未来のこめかみに薄く皺が浮かんだ。   「はいっ、全くっ!」 言ってなかったっけじゃないだろうと未来は思う。 だって百花から聞かなかったら、何も知らずに本番をむかえる所だったのだ。 いい加減なディレクターだなと未来が心中で毒づいていると。   「ごめんごめん。でも軽く触れる程度だからさ、大丈夫でしょ?それにキスシーンは初めてでも、未來ならキスくらいもう経験ずみだろ?帰国子女だし、モテモテだって聞いてるぞ~?このこの~っ」 「なっ…!」 なんとも軽薄な遠山に思わず未来は言葉を詰まらせた。 ぐいぐいと肘で脇腹ら辺をちゃかし突いてくる遠山がうざったいし、何より何だその噂は、と未来は思う。 確かに自分はモテモテではある。 が、しかしキスなどした事は一度も無かった。   「あれ?え、もしかしてした事なかった?」 何も言わず固まってしまった未来に、遠山はそう投げかけ伺いをたてた。 小首を傾げ未来の反応を待っている遠山に、図星を付かれ内心焦りを感じつつも、未来は咄嗟に満面の笑みを浮かべた。   「っも、勿論ありますよっ。やだなぁ~、当たり前じゃないですかぁ~」 はははは、任してくださいと、 未来は若干引きつった笑顔で応えるも、それに遠山が気づく事は無かった。 宜しくな、とその場を去っていく遠山のその背中を、未来はぼんやり眺めつつほろりと溜息をこぼした。 何となくキス未経験を否定してしまったが、果たしてそれが良かったのか悪かったのか。 どうしたものかなと未来は再び今度は深い溜息をついた。  

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