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第37話

家にたどり着くやいなや、未来は早速琉空に今日の出来事を相談していた。 「どうしよっ。ってかどうすればいいっ?」 事の経緯を説明したのち、未来はそう琉空に訴えた。   「いや、どうすればって言われたって、俺もした事ないし…」 携帯越しからでも未来の不安な気持ちは伝わるし、出来る事はしてやりたいと思う琉空だが、しかしながら自分もまた未来と同様未経験なので、アドバイスなど出来るはずもなかった。 「ってかそいうのは事務所の先輩に聞いた方がいいんじゃない?だって皆経験あるだろうしさ」 確かに、と未来は目から鱗、何故最初からそうしなかったのか、自分と同じくらい経験値が低そうな琉空に頼るより断然そっちだ。 しかも明日はレッスン日。 まさに丁度いい、と未来は少しばかり軽くなった気持ちで琉空との電話を終えた。 ※※※ 次の日。 未来はいつもより少し早く家を出て、お目当ての人物が来るのをロッカー室で今か今かと待っていた。 爽やかで誠実そうな見た目は中身も同様で、そこそこにモテるだろうから、きっと彼はキスくらい当たり前に経験していると思われる。 自分がキスをした事がないのがばれるのは若干恥ずかしいと思うが、しかし現場で恥をかくよりましだと未来が思っていると、漸く待ち人は現れた。   「おはよー」 ロッカー室のドアを挨拶と共に開けた彼の元へ、未来は小走りに駆け寄り声を掛けた。 「大和君、ちょっと教えて欲しい事があるんですけど…」 少し不安げに、大和を見上げる未来。 大和は荷物をロッカーに押し込みながらそんな未来に薄く笑みを浮かべた。   「あ~、未來。あれだろ?その、こないだのそっちの趣味の人の話の事だよな?それなんだけど…」 先日の疑問の答えを未来が再度求めてきたと思った大和は、次に聞かれたらきちんと答えてやろうと決めていたので、自分から話を切り出したのだが   「あ~、いや、それはもう大丈夫です」 「え?大丈夫?」 意外な未来の返答に、大和は思わずおおむ返した。   「はい。そんな事より大和君、キス、した事ありますよね?」 「は……?」 これまた意外すぎる未来のセリフに、大和は口をぽかんと空けたまま一瞬固まってしまった。 ※※※ クラブダイアのVIPルーム。 大和は今日の未来からの相談をそこにいる皆に話していた。   「へ~、キスシーンなんてあるんだ?小学生の役なのに?」 大和の隣に座っていた海斗がおつまみのポッキーを咥えながら、そう思ったままの疑問を口にした。   「あ~、うん。でもキスシーンっていっても勿論軽く触れる程度らしいんだけど…」 「そりゃそうだろ。ガキ同士のディープキスなんか放送出来ないし、いっくら仕事だからってそれは流石にさせられないでしょ」 大和の台詞にその向かいに座る旬が苦笑いを浮かべ話す。   「確かに~。でもなんかちょっと可哀想だね。ファーストキスがドラマの撮影なんてさ」 旬の隣に座っている斗真が彼の台詞に続いた。   「だよね~。最初くらいは好きな子としたい、ってか仕事でなんて嫌だよね~」 「だよな。でも今さら出来ないとは言えないみたいなんだよね。大丈夫かな、あいつ…」 海斗の言葉に大和はとても心配そうな表情を浮かべるが、旬にはその気持ちがいまいち解らなかった。   「いや、たかがキスじゃん?そんな心配しなくてもさ」 女の子ならまだしも未来は男だ。 減るものじゃないんだし別によくないかと旬は思う。   「確かに。ってか相手はどんな子なの?可愛い子なの?」 「え、さぁ?そこまでは知りませんけど、でもまぁタレントですしそんなブスじゃないとは…」 流石に相手の事まで聞いていなかった大和は、斗真の質問に憶測でしか答えられない。   「ならまだ救いだよね。可愛い子なら好きじゃなくてもね」 「全然ウェルカム。寧ろラッキーだって。つかこれを機に、初キスだけじゃなくて初カノも出来ちゃったりして~」 うきゃきゃきゃと下品な笑いをする海斗と旬に、大和が瞳を大きく見開いた。   「なっ、初カノっ?そんなの未來にはまだ早いですよっ」 キスもした事ないどころか、キスの仕方に悩む程まだまだ幼い可愛い未来に、彼女なんて早すぎるだろうと大和は思うが。   「早いって何が?だってもう中学生だろ?」 「そ、そうですけどでもっ、女の子と付き合うとかなんかあいつから全然想像できなくて…」 確かに。 と、斗真も大和の台詞に納得させられてしまう。 メディアを通じてでしかないが、未来の事を幼い頃から見てきているし、今の未来もその愛らしい見た目から純真さが際立っているので、異性との交友には程遠さを感じる。 「恋愛とか興味もなさそうだしね~」 「だよなっ。全っ然興味ないですから、あいつは女の子なんかっ」 そうだ。 だから彼女なんてまだ早い。 未来に彼女なんて早すぎると、大和が心中でもんもんと自答を繰り返していると。   「え、それってゲイって事?」 何とも的外れな回答を口にする旬に、斗真は呆れた眼差しをおくった。 「馬鹿。違うでしょ。旬と一緒にすんなよ」 「え?俺別にゲイじゃないんだけど」 女の子も大好きだし、と抗議の言葉を口にする旬だが、そんな事どうでもいいと海斗は思う。 旬の趣向などどうでもよいが、それより大和。 大和が未来の事を少し心配しすぎじゃないかと、海斗は未だぶつぶつ言いながら未来の事を考えているだろう大和を見遣りながら思った。 前々から思っていたが、大和は未來に対して過保護すぎな気がしてならない。 が、しかし純粋に可愛がってるだけなのかもしれない。 まだ幼いし、そうでなくとも未來は外見も中身も全部が可愛いのだから、大和が心配して当たり前。 自分の思い過ごし。大和の言動は至極普通な先輩後輩のもの。 そうだ、そうだよなと、海斗は一抹の不安を抱きながらも、自分の考えすぎだと思うことにしたのだった。

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