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第42話

夕日が丁度差し掛かった綺麗な海。 未来は百花と共に砂浜を歩いていたが、不意にそのあゆみを止めた。 そしてそれに気づいた百花がゆっくりと未来の方へ振り返った。 夕日が彼女の顔を柔らかく照らしている。 「好きなんだ。友達じゃなくてこういう意味で…」 未来は百花に近づくと、そっとその細い肩を抱いて、ふわりと掠める程のキスをした。 突然なそれに目を瞑る間もなかった百花は、そのまま立ち尽くすしか出来ないでいた。   「カット~!OKで~すっ。確認お願いしまぁす!」 しばらく見つめあったままでいた未来と百花の耳に、ADの笹本の声が届く。 未来は少し張り詰めていた神経を解し、軽く息を一つ吐いた。 良かった。無事終わりそうだ。 未来は人知れずそう安堵した。 そしてゆったりとした足取りで、少し離れた場所でモニターを確認しているディレクターの遠山の元へ向かっていると 「ねぇ未來君。どうだった?私とのキス」 未来の隣まで駆け寄ってきた百花が、そう小首を傾げて伺ってきた。   「え?どうって、んー、緊張したかな。こんな大勢の前でキスするなんて初めてだし」 とゆうかキス自体もつい最近までした事なかったんだけどねと、未来は心の中で自嘲した。   「私もっ。すごい緊張しちゃったっ。でも、ファーストキスが大好きな未來君とできて本当に嬉しいっ」 「あ~…、そう…。それはどうも…」 キャピキャピと弾むような声で言う百花に、未来はとりあえずの礼と苦笑いを浮かべた。   「でも今度は二人っきりの時にして欲しいな」 「え?」 「だけどそしたら私と付き合ってくれなきゃ嫌だけどね?」 綺麗な満面な笑みを浮かべそう言う百花に、未来はその意味を理解するのに時間がかかり、口をぽかんと開けたままでいると   「百花ちゃ~ん、ちょっとこっち来て~」 「はぁ~いっ。じゃぁね、未來君っ。また後でね」 そう言って、スタスタと去っていく百花の後ろ姿を未来は呆然と見つめていた。 ※※※   撮影合間の待ち時間。 未来は斗亜と共に海岸沿いの公園で、並んでベンチに座り時間を潰していた。 足元に転がる小さな石を蹴りながら、未来は斗亜に百花の事を相談した。 「百花ちゃんはさ、僕が百花ちゃんの事好きだと思ってるのかな?だってあれは、私とキスしたかったら付き合わなきゃさせないよって意味だよね?でも僕は百花ちゃんの事好きじゃないし、キスしたいとも思わないし付き合いたくもないんだけど…」 少しげんなりと疲れた表情を浮かべ言う未来に、斗亜は小さなため息を一つ吐いた。   「だったらそうはっきり言わなきゃ駄目だよ。女の子って本当に図々しいから。特に野村さんみたいに少しでも外見がいい子は自分に自信持っちゃってるからね。だから君が自分を好きとかあり得ない勘違いを普通にするし、妄想もどんどん膨らんでっちゃうから」 斗亜にそう諭され、未来は大きな瞳を見開いた。   「まじっ?」 「まじ。本当に早めに目を冷まさせないと、その内勝手に付き合ってる事にされたりしちゃうよ?」 「えぇっ?そんなの困るっ。ってか嫌だよそんなのっ」 信じがたく恐ろしい展開に、未来は瞳を泳がせ戸惑いを露にした。 そんな未来に斗亜はぴしゃりとこう言い放った。   「でしょ?だったら言ってやりなよ。お前みたいなブス、眼中にねぇよって」 「っなっ?!」 なんて事を言うんだ、いや、言わせようとするんだこの人はと、未来は斗亜のとんでもないアドバイスに、しばらく空いた口をふせげずにいた。

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