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第43話

海の見える小さな公園。 先程未来と斗亜がいた公園より、徒歩にして10分程の場所にあるそこは、芝生が植わった小さな丘が何個か設けられ、若者たちのデートスポットとなっている。 が、今はドラマ撮影の為、その場にいるのは関係者しかいない。 未来は丘の上に腰を降ろし、撮影開始の時を待っていた。 天候にも恵まれ綺麗な景色が広がり清々しいこの場所だったが、未来は先程斗亜に言われた台詞を思い出しもんもんとしていた。 女の子にブスだなんて、そんな台詞が自分に言えるだろうか。 いや、絶対無理だ。 だってこれからまだまだ撮影を共にしていかなければならないのに、そんな和を乱すような事は出来ないと未来が思っていると 「あ~、本当に気持ちいいね。こんな風に芝生に寝転ぶなんて何年ぶりだろ。ほら、未來も寝てみてよ。凄く気持ちいいから」 未来の隣に座り、そしてゴロンと仰向けに寝転びながら、姉役の陽香がそう誘った。   「あ、はい…」 陽香の様に未来も芝に倒れ込む。 が、彼女が浮かべる心地良さげな表情とは真逆に、未来の表情は優れない。 未来の頭の中は斗亜の助言ばかりが巡らされる。 百花を突き放す事は出来そうにない。 が、しかしかと言って斗亜が言うように勝手に付き合う事にされてはたまらない。 どうしよう、どうしたらとそればかりを考えてしまう。   「何か悩んでるって顔ね?さては恋の悩み、じゃない?」 知らず知らずのうちに寄っていた未来の眉間の皺に気づいた陽香が、そう声をかけると、未来はその身を半分起こし目を丸くした。 「なっ?!ちっ、違いますよっ。ってか何も悩んでないですしっ」 したり顔で聞いてきた陽香に、未来は咄嗟に否定の言葉を口にした。 恋の悩みでは全然ないが、悩んでいる事は間違いではない。しかしこんな話を陽香になど出来るわけがない。 というより何より、自分はそんな悩める少年顔をしていたのかと思うと、とても恥ずかしいなと心中で自嘲していると   「そう?じゃぁ私の勘違いか~。でもね、未來。男の子はいつだって格好よくしてなきゃ駄目だよ?」 「え?」 クスクスと笑って未来の誤魔化しに同調してくれた陽香は、身体を徐に起こし肩についた芝を払いながら、未来に優しい笑顔と声色で話した。   「誰に対してもどんな時もいつだって、男の子は格好いい方を選ばなきゃ駄目。特に女の子に対してはね。女の子を傷つける様な格好悪い男には、絶対になっちゃ駄目だよ?」 つん、と未来の額を最後に突いた陽香。 何も話していないのに、なんとも確信をついた陽香の言葉に、未来は苦笑いを浮かべながら分かりましたと、一応の返事をする事しか出来なかった。 ※※※ 次の日の事務所のレッスン。 未来は鞄をロッカーに詰め込み、タオルとペットボトルを出しながら深いため息をついた。 「はぁ~」 未開封のペットボトルの蓋を開け、喉を湿らす程度に一口含みながら、未来は昨日の陽香の言葉を思い出していた。 女の子は傷つけてはいけない。 勿論未来とて傷つけたいとは思っていない。 しかしどんな言い方をしたとしても、百花を受け入れない以上傷つけてしまうのではないかと未来は思う。 だって自分はは百花の気持ちには応えてあげられないのだからと、未来が2回目の深いため息をついていた所で声がかけられた。   「あ~、未來。ちょっといいか?」 「え、あ、はい。何ですか?」 思考を巡らしていた所だったので少し驚いた未来だったが、咄嗟に得意の人好きする笑顔を大和に向けた。 「あのさ、俺が口出しする事じゃないかもしれないけど、でもお前の事心配だから言わせて欲しい事があるんだけど…」 「あ、はい。何ですか?」 歯切れ悪く、神妙な面持ちで言う大和に、未来は小首を傾げて聞く体勢をとった。   「あのな、未來。俺は良くないと思う。お前がその子の事を好きならともかく、好きじゃないのにそういう事気安くさせちゃ駄目だよ。すぐにやめた方がいい」 「はぁ…、え~っと、すみません。何の話ですか?」 唐突に話す大和の言わんとする事が、いまいち未来には解らなかった。   「綾人達から聞いたんだよ。お前、キスシーンの練習を深谷君としてるんだって?仕事熱心なのはいいと思うけど、でもそんな事は練習でするものじゃないだろ?それに相手が男なんて、それを知った人はお前の事をゲイだって思うよ?そう思われてもいい、もしくはお前がゲイなら話は別だけど、いや、でもそれにしてもさっきも言ったけど、好きならともかく好きじゃない相手とキスなんてしちゃ駄目じゃないか?」 優しい口調だがきっぱりと、真っ直ぐに未来の瞳を見て話す大和。 そんな彼の真剣さから、本当に自分の事を思って言ってくれているのはひしひしと伝わってくるのだが…。 しかしながら、何で言うかな綾人君達と、未来は心中でそう毒づいていた。

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