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第62話
ホテルの一会場。
広い室内には5、6人がけの丸テーブルが十数台置かれ、それぞれ綺麗にテーブルメイクされていた。
未来は斗亜と護、敦らとテーブルに座り、前のステージでマイクを握る遠山を見つめた。
「え~、皆さん。今まで本当にお疲れ様でした。皆さんのお陰でとってもいドラマが作れました。ありがとうごさいます。今日は時間の許す限り盛り上がっていきましょうっ。では、乾杯~っ!!」
遠山の掛け声と共に、各テーブルでグラスが合わされる音が響き渡った。
「未來~、お疲れ~っ。なぁんか本当に寂しくなるなぁ~」
部屋の中央に並べられたビュッフェ形式の料理を取りに行くと、未来は谷口にそう言って話かけられた。
「ははは、そうだね。でも父さんはこれからもずっと僕の父さんでしょ?」
にこりと、なんとも愛らしい笑顔つきでそんな台詞を言われ、谷口は思わず未来をぐいっと抱き寄せた。
「未來っ。お前っ、可愛い事言ってくれるなぁっ。っ、そうだっ。父さんはずっとお前の父さんだよっ」
「うわっ?!ちょっ、父さんっ、苦しっ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる谷口の腕に息苦しさを感じるし、漂ってくる酒の匂いに少しだけ目眩を未来は感じた。
それにしても、まだまだ始まったばりなのに中々に酔いが回っていそうな谷口を、未来は大丈夫かなと心配に思った。
宴も中盤に差し掛かった頃。
未来と斗亜が仲良く料理を食べているテーブルの少し離れた所。
寛也と陽香はそっとそちらの方を伺いながら、ひそひそ話を繰り広げていた。
「何で?近づけるチャンスかもしんないんだから、絶対聞いといた方がいいってっ」
「でもっ」
らしくなくもじもじとしている陽香に、寛也は焦れったい気持ちをあらわに彼女の背中を押すが、中々前に進みそうにない。なので
「でもじゃねぇよっ、未來っ。あのさっ」
「っ!ちょっ、隼人君っ。ちょっと待ってっ」
細い陽香の腕をぐいっと掴むと、寛也は強引に戸惑う彼女を未来の元へと連れていった。
「??何ですか?どうしたんですか?」
突然話かけてきた寛也と、そして一緒にいる陽香が何故か焦った顔をしていたので、未来は何事だと疑問符を浮かべそう聞いた。
「あのさ、ちょっと聞きたい事があるんだけどっ」
「待ってっ。やっぱいいよっ、寛也君っ」
「何でだよっ。聞いた方が絶対良いってっ」
何やら揉めている様な二人に、未来はただただぼんやり二人を見やるしかないが、どうやら自分に質問があるらしい事は分かった。
「?聞きたいこと?何ですか?」
未来は小首を傾げてこちらからそうたずねてみた。すると
「お前さ、神谷君って知ってる?つかお前仲良い?」
「寛也君っ!」
何度も何度もいいと断りの言葉を述べていたのに、にもかかわらず寛也を止める事が出来ず、陽香はその綺麗な顔をみるみる赤く染めていった。
「え?神谷君?」
突然事務所の先輩の苗字を言われた未来は、ぽかんと口を開いて何故今その名前が出てきたのか、全くもってわからないでいた。
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