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第68話
合同レッスン日。
海斗は昨日の大和の言動に未だ苛立ちが治められず、そしてその事を思い返していた。
可愛い可愛いと未来をべた褒めしていた大和。
確かに未來は可愛いと海斗だって思う。
だけど未來は大和にだけじゃなくて皆になついている。
なのに俺にしかとか、大和が大きな勘違いをしている所が海斗としてはなんだか非常に腹が立ったのだ。
そんな事を思いながら、海斗はレッスン室に続く廊下をむっすり顔で歩いていると
「あ、海斗君。おはようごさいます」
なんともタイムリーに、未来が海斗に声をかけた。
あんなに可愛いと思っていた未来の綺麗な笑顔が、今は見たくないと海斗は眉を顰めた。
「っおはよっ」
それでも一応挨拶には応え、だけどふいとすぐさま踵を返して未来の元を去った。
そんな海斗の様を、未来がぽかりと空いた口で見つめていると
「未來、海斗君に何かした?なんか今さ、海斗君睨んでなかった?」
少し遠目で未来と海斗の様子をみていた陽太が、ひそっと未来の耳にだけ聞こえる声音でそう言った。
「うん、してないってかした覚えはないけど、でも僕やっぱさっき睨まれたよね?」
一瞬自分の気のせいかとも思ったが、第三者である陽太もそう感じたのなら気のせいではないだろう。
しかし一体全体、何故睨まれたのか、未来には全く分からなかった。
※※※
次の日の学校。
未来は人気の少ない教室のベランダに琉空を呼び、一限が始まるまでの間に昨日の海斗の事を話していた。
「え?海斗君って、確かOクラスの先輩の中で一番お前の事可愛がってくれてた人だよな?」
未来から意外な話を聞いた琉空は、瞳を丸くし驚いた。
「うん。だから何で睨まれたかまじで解んないんだけど、僕何かしたのかな」
肩を落として小さなため息混じりに話す未来に、琉空は腕を組み小首を傾げた。
「ん~…、まぁ、無意識に何かしちゃってる事ってあるしな。特にお前は裏表あるし、何かしちゃったんだろうな、きっと」
「はぁ~っ、だよねぇ~。でも何にも心当たりないんだよね~」
大きなため息をつく未来はあからさまに気落ちしていて、自分の行動を振り返るが全く検討もつかない。
「そりゃそうだろ。だってお前は無意識なんだからさ、自分じゃ気づけないんじゃない?」
確かにそうだと未来も思う。
そうなると知っていそうな人に聞くしかない。
海斗のなんらかを知っていそうな人イコール大和に、今度会ったらそれとなく聞いてみようと、未来は次のレッスン日を心待ちにした。
※※※
未来が海斗の事を思い悩んでいる頃。
海斗は大和の家でやはりむっすりとした顔で雑誌を眺めていた。
「お前さ、何怒ってんの?つか何が気にくわないの?」
ずっとむくれた顔のままの海斗に、いい加減嫌気を感じた大和がそう伺いをたてるも、海斗は雑誌から目をあげようともしなかった。
「別に?何も怒ってないよっ」
語尾荒く、そんな台詞を言われて誰が信じるというのだと大和は思う。
「嘘つけ。ふてくされてんじゃん。何?お前まさか本気で未來と俺が何かあるって疑ってんの?」
「っうるさいっ。怒ってないって言ってんじゃんっ!勝手に勘違いしないでよっ。うざいっ!」
やっと顔をあげたかと思ったら、敵意むき出しの瞳で睨まれて、大和は思わずたじろいだ。
「なっ、だったら勘違いするような態度すんなよなっ!お前がそういう態度してると周りだって気使うだろ?」
そう。
数日前から色々な人に大和は聞かれていた。
イライラしている海斗はどうしたのだと。
大和はそのうち機嫌を治すだろうと、適当に今まではぐらかしていたが、いつまでたっても治りそうにない海斗の機嫌にそろそろ何とかしなくてはと思い始め、海斗に態度を改めるよう促したのだが
「あ~、そうだねっ。気を付けるよっ。すいませんねっ。俺が悪かったですっ。これでいいっ?」
ぷいっと顔を逸らし相変わらずむくれた顔のままの海斗に、大和は深いため息を吐いた。
何を海斗がこうも苛立っているのか本当に大和にはわからなかった。
自分に対して怒っているのは確かだが、その理由がわからなければ弁明のしようがない。
何なんだよ本当にと、大和は頭を抱えて眉を顰めた。
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