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第69話

レッスン日。 未来は朝早くにありさに送ってもらったお陰で、誰より早く更衣室にたどり着いた。 着替えも済ませ、後は大和が来るのを待つのみだが、次に大和が来るなんて都合よくはいかないだろう。 だからどこで大和と話をしようかと、未来が考えていると 「おはよ、未來。早いな」 ドアを開けたのはまさかの大和で、未来は内心でやったぁと拳を握り、そして大和の元へ向かった。   「おはようございます。あの、大和君」 「ん~?何?」 着替えをしている大和の横に、未来はそわそわとしながら立った。   「あの、海斗君の事なんですけど」 「え、海斗?海斗がどうかした?」 ここ最近の大和の悩みの種。 海斗の名前が未来から出るとは思わず、大和は着替えの手を休めて未来に向き合った。   「あの、何て言うか、その、僕の事なんか言ってませんでした?」 歯切れ悪く、もじもじとした物言いの未来に大和はどうしたのかと不思議に思う。   「え?何かって、いや?」 と、否定の言葉を口にした大和だったが、不意に海斗が未来に焼きもちを妬いている様な素振りがあった事を思い出し、まさか海斗が未来に何かしたのかと不安がよぎった。 「何で?海斗に何かされたの?」 「えっ?いや、されてないですけど」 真剣な眼差しを向けてくる大和に、未来は何故か咄嗟に嘘をついてしまう。そして 「あの、何か僕、知らないうちに嫌な事しちゃったかなって、もしそうなら大和君何か聞いてるかなって思っただけなんで」 しどろもどろにそんな台詞を言う未来に、大和は海斗が何かした事を察し深いため息を吐いた。   「はぁ~っ、ごめんな未來。あいつ最近ちょっとおかしいんだわ。俺から言っとくから今回は許してやって?もう絶対させないからさ」 そう言って海斗の代わりに頭を下げた大和は、苛苛としていた最近の海斗を思い出す。 まさか未来にまで迷惑をかけていたとは思わなかった。 自分と未来は何もないとあれだけ言ったのに、勝手に嫉妬して絡んだだろう海斗には呆れてしまう。 しかしいつもの彼はそんな事をする様な奴じゃないのに、本当にどうしてしまったのかと大和が思っていると   「あのっ、そんな特に何かされた訳じゃないですからね?」 どこか焦った様にそう言う未来に、大和は眉を下げて柔らかく笑った。   「そっか。でももし何かされたり言われたら俺に言ってな?」 どんな理由があれど、こんな子供にまで気を使わせた海斗に大和は少し腹立たしさを感じた。 そして未来はそんな大和の様子に、なんだか話が大事になりそうな予感がし、再び否定の言葉を口にした。   「いや、本当に何にもされてないし言われてないですよっ?あ、僕の勘違いっていうかきっと思い違いなんで、何も聞いてないならこの話はなかった事にして下さい。本当に何もされてないですから」 懸命に未来が弁明すればするほど、大和の疑惑は確信へと変わっていってしまった事を、未来は全く気づけずにいた。 ※※※ 次の日の学校。 窓際後部座席で未来は琉空に大和との話をしていた。   「でも、睨まれたって思ったのはお前だけじゃないんだろ?」 未来の話を聞いた琉空は、未来が何故その事を大和に話さなかったのか不思議に思った。   「ん~、そうだけど…。でも単に機嫌が悪かっただけかもしれないし」 「いや、そうかもしれないけど…」 確かに未来の言う通りそれは有り得るのかもしれないが、だが未来から聞いた限りの海斗の人物像で、彼が自分の機嫌で後輩にあたる様な人には琉空には思えなかった。   「まぁ、次もしまた睨まれたらその時は直接本人に聞いてみるよ。何かしてたら謝りたいし」 そう言う未来に、琉空はそうだなと相槌を打った。 大和や他の誰かに聞くより何より、やはり本人に聞くのが一番だ。 仮に何らかの誤解で海斗が腹を立てているとしたら尚の事、未来自身でとくのが一番だと琉空も思う。 第三者が入るとややこしくなることもあるし、そうならないうちに蟠りが無くなることを琉空は祈った。

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