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第70話
合同レッスン日。
レッスンが終わり着替えも終え、未来は陽太と共に迎えを待っていた。
そろそろありさが来る頃かなと、未来は首から下げていたiPhoneを見た。
するとありさから何件か着信が入っていた事を知り、未来は慌てて折り返しの電話を入れた。
「えっ?迎えに来れないって何でっ?…うん、うん。そっか…。うん、解ったよ。聞いてみる…。はぁ~」
深いため息と共に電話を切った未来に、陽太が心配そうな視線を向けた。
「お母さん、もしかして来れないの?」
「うん。親戚のお通夜に行かなきゃいけなくなったみたい」
眉を下げて言う未来に陽太はまじかと瞳を大きくした。
「え、じゃあどうすんの?どうやって帰るの?」
「はぁ~っ、それなんだよねぇ。どうしよう。陽太今日お兄ちゃんだよね?」
いつもは母親に迎えに来てもらっている陽太だが、母が忙しい時は兄になる。
そして母は車だが兄はバイクだった。
「あ、うん。だから3人はちょっと…」
「だよねぇ~。あ~っ、もう蒼真君達帰っちゃったし、どうしようっ。って、一人で帰るしかないか…」
困ったなと肩を落とす未来だが、しかしここで困っていても家には帰れないしありさも来ない。
仕方なく未来は一人で帰る選択をするが
「えっ?いや、でもそれはちょっと危なくない?もう20時過ぎてるしさ。あ、大和君は?さっき光太郎君達見たし、もしかしたらまだいるかもよ?」
先程トイレに行った時、光太郎達と確かにすれ違った事を陽太は思い出した。
いつも大抵一緒にいる彼らなので、大和がいる確率は高いと未来も思った。
「まじ?ちょっと僕見に行ってくるねっ」
急げ急げと腰をあげた未来は、陽太にそう言うや否や大和が居るであろうレッスン室にかけていった。
大和達のクラスのレッスン室の扉を開けると、そこには大和と、それに海斗、光太郎、拓海の四人の姿があり、未来は安堵のため息と同時に大和の名を呼んだ。
「大和君っ!」
意外な人物から名前を呼ばれ、大和は少しびくりと肩を竦めた。
「?未來っ?どうした?」
「あの、実は今日母さん迎えに来れなくなっちゃって。でも解ったのさっきで…」
入口付近でそわそわとこちらを見る未来に、大和はみなまで聞かずとも状況を把握した。
「あ~、まじか。だからこんな時間までいたのか」
「はい。あの、用事とかなければでいいんですけど、送ってって貰えたら助かるなぁ~って…」
申し訳なさそうに大和に視線を送る未来に、大和は徐に腰をあげて未来の元まで向かった。
「あぁ、うん。勿論送るよ。一人じゃ危ないし」
にこりと笑って言ってくれた大和に、未来が良かったと安心していると
「は?じゃぁご飯は?行かないの?」
大和の台詞に海斗が眉を顰めてそう言った。
「いや、送ってきてから行くから先食べててよ」
「え?先って焼き肉なのに?」
「いいよ、別に。後から頼むから」
「っ、でもさっ」
何やら押し問答を繰り広げる大和と海斗に、未来は気まずい気持ちが込み上げ二人の会話に割って入った。
「あ、いや、用事あるならいいですっ。大丈夫ですからっ」
だから揉めないでくれと、そう素直に思いながら未来が言うと
「大丈夫ってどうすんの?他に宛てあるの?」
未来の台詞に反応した光太郎がそう質問した。
「いや、宛てはないですけど、でもお金はあるんで電車で帰ります」
「一人で?駄目だよ夜遅いし。ばれたら大変じゃん?」
心配そうに眉を下げて言う拓海に、大和も同調する。
「そうだよ。何気使ってんだよ。送ってくから遠慮なんかしてんな」
ぽんっと未来の頭に手を乗せ、大和はにかりと笑って見せるが、未来はその首を縦にはおろせなかった。
「いやっ、でもっ」
「いいから。じゃぁ俺ちょっと未來送ってきます。全然先食べ始めてていいですから」
行くぞと、大和に半ば強引に腕を引かれるが、それでも未来の戸惑いは拭えずおろおろとしてしまう。
が、そんな未来を他所に光太郎も拓海も、大和の台詞に快く頷いた。
「おう、解った」
「気を付けてな」
そう言って送り出してくれる光太郎と拓海に、未来はやっとこれで良かったのかなと思い、大和達に甘える事を決め頭を下げた。
「あの、すみません。ご迷惑おかけします。えっと、海斗君も、すみません…」
何も言わずこちらを睨んでいる様な海斗に、未来は恐る恐る声をかけた。すると
「何それ、本当にそう思ってんの?」
「え…」
ぽつりと言われた台詞があまりに意外過ぎて、未来は思わず言葉を聞き返した。
そんな未来に海斗は堰を切ったように自分の苛立ちをぶつけた。
「そうやって甘えれば誰でも言う事聞いてくれるって本当は思ってんだろっ?断られるなんて思ってないでしょっ、最初っからっ!」
あんまりな海斗の台詞に、未来は驚き言葉を飲むが、しかし咄嗟に否定の言葉を口にした。
「なっ、そんなっ。思ってないですよっ、そんな事っ」
「海斗っ、お前何言い出すんだよっ。未來がそんな事思うわけないだろっ?」
未来を庇う大和の態度に、海斗のボルテージは更に上がっていく。
「そうかな?でもどっちにしろ未來はいいね。甘えて頼れば誰かが助けてくれるんだから。だけどだからってあんま調子乗ってんなよっ?自分の事くらい自分でどうにかしろよっ。いっつもいっつも大和が優しくしてくれるからって、大和の事ばっか頼んなっ!ただの後輩の癖にっ、お前が大和を独占すんなっ!」
そう、海斗は言いたい事を全て吐き出したのち、息を荒らげたまま部屋を出て行った。
そしてバタンと勢いよく閉められた部屋のドアを、その場に居た全員でしばし呆然と見つめていた。
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