72 / 100
第74話
合同レッスンの休憩時間。
未来は蒼真、綾人と、健太、七瀬の四人と共に小さな円を作り、レッスンが始まるまでの時間を皆で雑談して過ごしていた。
「まじいいなぁ~っ。合同合宿っ。俺もSクラスに入りた~いっ」
く~っと、羨ましさ全開に健太が言うと、その隣に座る七瀬が声をあげて笑った。
「ははははっ。何言ってんの?お前じゃ無理だって、無理無理っ」
Sクラスはダンスも歌唱力も高い技術がある、もしくはその可能性を秘めているものしか入れない。
そして健太にはそのどちらも今のところ見いだせないと七瀬は思う。
「っんなの言われなくても解ってるよっ。だから入りたいって希望を言っただけじゃんっ」
七瀬に全否定され、健太が顔を赤くして反論すると
「希望ねぇ~。そういうのは持ってるうちが一番いいんだよねぇ~」
二人のやり取りを聞いていた蒼真が、遠い目をしながらそう言った。
そしてそれに綾人は首を縦に振り相槌を打つ。
「そうそう。そんな楽しいもんじゃないよ?実際は」
「は?なんで?女の子と合宿だよ?絶対楽しいでしょ」
「そうだってっ。お前はゲイだからそう思うんだよっ」
綾人の言葉に健太と七瀬は揃って反論すると、蒼真が至極真剣な眼差しで二人の反論に異を唱えた。
「いや、俺はゲイじゃないけど楽しくないよ。だってうちの女はつぇーから。可愛げなんて一切ないし、寧ろ怖い…」
蒼真は肩を震わせ顔を少し青ざめながら、思い出したくない数々の記憶を辿っていた。
「激しく同意。はぁ~、合同なんかじゃなくて男女別でまじでお願いしたいよな~」
「本当本当」
浮かない表情の蒼真と綾人。
そんな彼らに相変わらず、やいやいと抗議と羨望の眼差しを向けている健太達を視界にいれながら、未来は話題の合同合宿のことを思った。
二泊三日の合同合宿。
男女混合のレッスンはどんな事をやるのだろかと、未来は楽しみに思うがしかし、今はそんな事よりも海斗の事が気になってしまう。
やはり今日謝ろうと未来は思う。
琉空の言うタイミングが未来にはいまいち解らないし、嫌われたままぎくしゃくしてるのが何より嫌だと、未来はそう心に決めた。
レッスンが終わり各部屋から出てきstudents達で賑わう廊下。
未来はその中から海斗の姿を発見し、すぐさま声をかけた。
「海斗君っ!」
呼ばれた声に反射的に振り返ると未来の姿が視界に入り、海斗は思わずげっと顔を歪ませた。
「っ、何?」
何の用かは知らないが出来れば今は未来と話したくないと、海斗はふいっと視線を未来から逸らした。
「あのっ、僕、海斗君に話したい事があって」
「話したい事?何?こないだの文句でも言いに来たの?でも俺は謝らないからな」
瞳を揺らして見上げてくる未来に、海斗は無性に腹立たしく感じ、自分でも呆れる程子供じみた態度を取ってしまうが
「すみませんっ!」
「え?」
突然頭を下げる未来に、海斗は意表をつかれ驚きの声をあげた。
「僕っ、海斗君の言う通り大和君に頼りすぎてました。言われて凄く反省しましたけど、言われなかったらきっと気づかずに甘えてばっかでした。海斗君が怒ってくれなかったら気づけなかったです。だから、ありがとうございますっ。これからは自分の事は自分で出来るように頑張るんで、だから、僕の事嫌いにならないで下さいっ。お願いしますっ」
必死になって訴えてくる未来に、海斗はただただ呆然として戸惑うしかなかった。
ともだちにシェアしよう!