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第75話

未来からの謝罪を受け帰宅した海斗は、家に着くや否や幼なじみである困った時の相談相手、Miracle看板矢口斗真に電話をかけた。   「ふ~ん、で?お前はそれ言われてどう思ったわけ?」 丁度ドラマの撮影合間の待ち時間。 暇を持て余していた斗真は海斗からの電話にすぐ応じ、そして彼の相談に付き合っていた。   「どうって、反省してるよ。まじで大人げなかったなって。俺にやつあたられてたのにありがとうなんて、やっぱ未來は凄くいい子だから」 気落ちした声音で話す海斗に、斗真は爪にやすりを掛けながら応えた。   「まぁ、そうだな。普通はうっぜー先輩、絡んでくんなよって思われて当然だし~」 「っ、ですよねっ…」 最もな斗真の意見に、海斗は言葉を飲みバツの悪い表情を浮かべたが   「でも、俺はやっぱ未來苦手かも」 「え?」 当然自分が責められるものと思っていた海斗は、斗真の意外な台詞に意表をつかれ瞳を丸くした。   「だってなんかさ、いい子すぎて逆にうざくない?お前じゃないけどそうやって言えば、お前が悪い気しないし許してくれるって解ってやってるんじゃねって思っちゃうんだよね~。だって普通はやっぱうざいと思うからさ」 斗真はやすりたてのピカピカの爪にふぅーっと息を吹きかけ、淡々とした口調で話す。   「だからなんかさ、純粋で従順な可愛い後輩を装ってる風にしか思えない。計算高いってか、じゃね?」 そう同意を求めてきた斗真に、海斗は曖昧な返事で返すしか出来なかったが、しかしそれは斗真の偏見だと海斗は思った。 しかし斗真が言うように、未來が本当に計算高い嫌な後輩だったら良かったと思う。 だってそうだったらきっと、こんなモヤモヤとした気持ちにはならなくて済んだ筈だと海斗は思う。 しかしながら未來はそんな子ではないと海斗は信じている。 それに自分だって本当は未來の事を可愛がりたいと思っている。 なのになんでか、大和と話してる未來を見ると苛々してしまう。 未來に焼きもちなんて妬きたくないのに、何故だか二人を見ると無性に腹立たしく思ってしまう自分に、海斗はひどい嫌気を感じた。 ※※※ 海斗が斗真に電話しているのと同じ時。 未来もまた唯一の相談相手、琉空に今日の出来事を話していた。   「まじ?じゃぁ許してくれたって事?」 予想外な展開に、琉空は瞳をまん丸にして驚きの声をあげた。   「うん、多分ね。俺の方こそごめんねって言ってくれたし」 「ふ~ん、まぁ、なら良かったけど…」 けろりとした声で話す未来に、琉空は僅かに眉を顰めながら応えた。 一体どんな言い方をしたらそうなるのだと琉空は思った。 自分の予想では未来の立ち位置で謝ったら、うざいと海斗は思うだろうと予測していたのに、はずれてしまった事を受け入れがたく思っていた。 そしてそれに加えて未来の今回の行動。   「ってかまじで超意外なんだけど。お前がそんな下手に出るなんてさ。だって状況的には別にお前の立場は悪くないし、そもそもお前は悪くなかったのにさ」 それが最大級の琉空の衝撃だった。 いつもの未来からは本当に考えられない行動だと琉空は思う。 「まぁね。でもだからだよ」 「は?だから?」 琉空は訳が分からず未来の言葉をそのままオウム返した。   「そう。だって悪くないのに謝るって凄くいい子でしょ?そんないい子を普通は責められないし、それでも責めてたら海斗君の立場がまじで無くなるから。だから先手必勝って事。特に海斗君みたいな優しくてお人好しな人は、僕みたいな後輩を本気で嫌うなんて出来ないと思うし」 いけしゃあしゃあと言う未来に、琉空の口端が徐々に引き攣っていった。   「っ何だそれっ。超打算的っ。ってかじゃぁ本心では悪いなんて思ってないって事?」 よくもまぁそこまで考えて行動出来るなと、琉空は眉間に深く皺を寄せて未来に問うと   「当たり前じゃん。だって僕は悪くないもん。琉空だってそう言ってくれたじゃん?それに、打算的でも計算高いって思われても、結果いい人間関係でいられた方がいいでしょ?これからも付き合いはあるんだからさ」 そうじゃない?と、同意を求めてくる未来に、琉空は思わず言葉を詰まらせた。   「っ、そうだけどっ、でもお前の本性知ったら皆引くと思うよ?」 天使のようだと評されているその無垢な笑顔の下で、まさかこんな偽善的な思考が繰り広げられてるとは、予想だにしないだろうと琉空は思った。   「ははっ。そんなばれるようなヘマ僕がするわけないじゃん」 「いや、そういう問題じゃねぇだろっ」 思わずそんな突っ込みを入れるが   「何で?そういう問題だよ」 琉空の懸念は未来には伝わらない。 ならばもう仕方ない。 どうせ何を言ったって未来は自分の言う事など聞かないだろうし、だったら言うだけ無駄だと琉空は早々に諦めた。 勝手にすればいいと、そう思うのだが、しかしそういう裏表のある言動は、気づく人はすぐ気づくのではないかと琉空は思う。 そうなると、気づかれた時未来はどうするつもりなのだろうか、それで周りに誰も居なくなってしまったら、未来は辛くないのだろうかと、結局琉空は未来の心配をしてしまう。 だがそこまで至って、琉空ははっと気付かされる。 何を自分はあんな自己中野郎の心配などをしてしまっているのかと。 そして首をぶんっと振って我に返る。 もしそうなったとしても、それは未来の自業自得だ。 なんなら寧ろそうなればいいし、一度痛い目に合わないと未来はは解らないと、琉空はそう思い改めた。

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