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第78話

合宿施設居室。咲と遥の部屋。 レッスンが終わった二人は部屋にて各々寛ぎながら、未来とクロエの話ではなを咲かせていた。   「いやぁ~、しかし中々強烈なキャラだよね、クロエって」 ベッドにごろんと寝転びながら遥は話す。   「あははは、そうね。でも私的に意外だったのは未來なんだけど。控えめで大人しいイメージだったんだけどな~」 咲も自分のベッド、遥の顔が見える位置に腰をおろしそう言った。 「はは、確かに。でもそれはドラマのイメージでしょ?実際は違って当たり前。まぁだけど、まさかあんな天狗ちゃんだとはねぇ」 「ね~。でも実力も才能もあるし、見た目も良いからそうなるのも解るけど」 先程のダンスレッスンで踊る未来は、技術的な上手さよりも人を惹きつけるなにか、そして魅せる力があるように咲は思った。 それは多少自意識過剰でも許せてしまうくらい。   「そうだな。でもそうは思わない人も多いから」 「まぁね。だけど大丈夫よ。あの子きっとちゃんと相手によって態度変えれるタイプだから」 そう思わない?と言って同意を求めてくる咲に、確かにと遥は笑って答えた。 ※※※     翌日。 夏真っ盛りなこの季節でも、軽井沢の朝は少し肌寒く感じる。 居室フロアーの中央に設けられている共同洗面所。 未来は一人歯磨きをしながら、小さくため息をついた。 昨日のクロエとのやり取りで、今までこつこつと作り上げてきたいい子キャラが綾人達に演技だとばれてしまった。 咲と遥はガールズなので、この合宿の後会う事はあまりないのでもういいかと思う未来だが、問題は綾人だ。 彼には頻繁に会うし、今までずっといい子キャラで通してきた。 だから激しく気まずいと未来は思う。 それに大和達にも話される確率は高い。 そう思うと憂鬱な気持ちから、今度は先程より大きなため息を未来が吐いていると 「どうした?朝からため息なんてついちゃって」 すっと未来の隣に現れた綾人に、未来はびくりと肩を震わせた。   「あ、綾人君っ。お、おはようごさいますっ」 「おはよう。何かあった?」 「え、あ、いや?な、何もないですよ?」 昨日の今日で未来はどんな風に綾人に接していいのか解らず、しどろもどろにそう答えた。 「え~?嘘。じゃぁなんでそんな顔してるの?折角の可愛い顔が台無しだよ?」 「っ、なっ、そんなっ…。可愛く、ないですよ」 「ふっ、それも嘘。ってかまだ俺にそのキャラで通すつもり?」 やはり綾人に指摘され、未来は気まずさに耐えかねて、すみませんと謝り視線を逸らした。 そんな未来に綾人はふわりと柔らかい笑みを浮かべた。   「なんで謝るの?別に悪い事してた訳じゃないじゃん?誰にだってオンオフはあるんだからさ。それに体裁繕うのは大事な事だと俺は思うよ?」 「っ、でもっ、性格悪いなって思いましたよね?」 ちらりと揺れる瞳で綾人を見ながら、未来はそう伺った。   「え~?そんな風には思わないよ。だってお前が可愛いのも才能あるのも事実だし。まぁでも、確かに普通はそれを自分で言ったりはしないけど」 困ったような笑みで言う綾人に、未来は言葉を詰まらせそして再び視線を落とした。   「っじゃぁ、可愛くない奴って思いますよね」 「ん~、そうだなぁ~。まぁでも俺は気づいてたから。お前が俺らの前で猫被ってる事には」 思いもよらない綾人の言葉に、未来は驚きと共に顔をあげ瞳を丸くした。   「え、気づいてたって、うそ?何でですか?」 「何でって、そりゃ解るよ、解る奴には。あ、でも大和君や蒼真とかはお前の演技にすっかり騙されてるけどな」 けらけらと笑って話す綾人に、未来はいまいち理解が追いつかず、戸惑いの表情を浮かべた。   「っじゃぁ何で黙ってたんですか?大和君達に言わないんですか?」 「え~、未來は猫被ってるよって?」 はい、と、今にも泣きだしそうな潤んだ瞳で自分を見つめながら言う未来に、綾人はくすりと笑って小さな頭をふわりと撫でた。 「そんなの言う必要ないでしょ。さっきも言ったけど、誰にだってオンオフはあるし、体裁よく人に接するのは悪い事じゃないと思うから。それに大和君達がお前の言動に不快を感じてる訳じゃないんだからさ。寧ろそういうお前を望んでるふしもあるくらいだし。お互いに支障がない事にわざわざ水差す必要ないだろ?」 優しい手つきで綾人に髪を撫でられ、未来の綾人に対しての警戒心がゆっくりと溶けてゆく。   「大人、ですね…」 ぽつりとそう言い、拗ねたような素振りを見せる未来がなんとも可愛くて、綾人は声をあげて笑った。   「はははははっ、未來よりかはな。あ、もしかしてだからため息なんかついてたの?俺が大和君達にちくったらどうしようって?」 「っ、ぅ…、はい…。それと、綾人君に嫌われたかなって…」 見透かされてしまった事の気恥しさから、未来はいつものハキハキとした物言いとはまるで真逆の、ぐずついた喋り方で言った。 「あははははっ。そんなんで俺は嫌いになんてならないよ。あ~、でもな未來。確かにそれでお前の事よく思わない人もいると思うから、八方美人も程々にな?」 そう言って、お先にと立ち去って行く綾人の背中を見つめながら、未来は小さなため息をついた。 まさかばれてたとは思わなかった。 そしてそれはなんだか非難されるより気まずい。 更にその上恥ずかしいなと未来は思った。 そして改めて思う。 本当に気を付けようと。 だって痛い目なんて合いたくない、未来はそう静かに思った。

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