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第83話
撮影スタジオの会議室。
未来がその扉を開けると、開始10分前だというのに既に多くの役者達が揃っていた。
「未来君、おはよう。皆さん8割方お揃いですよ。監督はもうしばらくしたら来るんでちょっと中で待ってて下さいね」
入口できょろきょろとしていた未来に、撮影スタッフの女性がそう声をかけた。
未来はその女性に解りましたと返事をすると、徐に部屋の中を見渡した。
悟から話には聞いていたが、錚々たる面々で埋まる室内に、本当に豪華なキャスティングだなと未来は心中で感嘆の声を漏らした。
こんなビッグネームな人達と映画をやれるなんて、本当に凄い事で、それはとても光栄な反面、なんだか萎縮してしまいそうだと未来が感じていると
「なんだぁ~、お前。緊張してんのかぁ?」
ぬぅっと、どこからともなく現れた谷口に、未来は肩をビクつかせ驚いた。
「わっ、と、父さんっ!べ、別にしてないよっ。緊張なんてっ」
むすっと唇を尖らせて言う未来の腕を、ぐいぐいと肘で押しながら谷口は言った。
「嘘つけ~っ。してる癖に~。強がんなよ~」
「っ、強がってなんかないよっ」
口ではそう言い張った未来だったが、本当は緊張で落ち着かないでいた。
だから谷口のからかいは、未来としては少し有難くあった。
「あはははは。仲良しっすねぇ」
そんな二人のやりとりを見ていた男、歳の頃は30後半、どこにでもいるような凡庸な外見だが、味のある演技で幅広い役をこなす俳優、安藤智(さとし)は、にこにこと人の良さそうな笑顔を浮べてそう言った。
「そりゃ当たり前だ。だって親子だからなぁ、未來」
同意を求めながら頭をわしゃわしゃしてくる谷口の手を、未来は少しうざったく感じながらも、悟からこの映画に谷口も出ると聞かされた時は、再び彼と仕事が出来る事を嬉しく思った。
「…まぁ、そうだね。あ、初めまして。加藤未來です。これから宜しくお願いします」
谷口とは今回は殆ど絡まない。
が、安藤はこの映画のメインキャストの一人なので、出来れば仲良くしてもらいたいと、未来は深々と頭を下げた。
「こちらこそ宜しく。安藤智です」
にこやかに笑って握手を求めてくる安藤に、未来がにこりと笑顔で答えていると
「あ、この子ねぇ~、ちょっ~と人見知りしちゃうとこあるから最初はあんまり喋れないと思うけど、馴れると大丈夫だから」
谷口は相変わらず未来の頭をわしゃりと撫でながら話した。
そんな谷口からの未来説明を受けた安藤は、あははと声を出して笑った。
「そうなんだ。お父さんいなくて寂しいかもしれないけど、一緒に頑張ろうな?」
「っな、別に寂しくは」
「あぁっ、父さん不安だよっ。ちゃんとやれるか~、未來~」
未来の台詞を遮り、悪戯な笑みを浮べ言う谷口に、未来はむっとした表情を浮かべた。
「やれるよっ」
「皆の言う事聞かなきゃ駄目だぞ~。お前は結構ぼんやりしてるから」
わざとらしく心配だと眉を下げる谷口に、未来は解ってるよと答えながら、ありさも谷口も大人は皆同じような事を言うなと改めて思った。
もう耳にたこが出来るほど言われてきた言葉に、そろそろ飽き飽きしそうだ。
がしかし、そんな事より何より、本当にこんなベテラン揃いの中で仕事が出来る環境というのは中々ない。
だから本気で気合いをいれていかなきゃなと未来は思う。
皆から学べるとこ、盗めるとこは全部吸収してってやる。
それでこの映画を必ず成功させて、僕の名前をもっともっと沢山の人に知ってってもらわなきゃと、未来はそう自分にしっかり言い聞かせた。
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