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第84話
合同レッスンの休憩中。
未来は陽太と二人、部屋の片隅で始まるまでの時間を過ごしていた。
「じゃぁ夏休みはほぼ映画の撮影?」
夏休みのあれやこれやを話していた二人。
陽太は未来から映画の話を聞いたのち、そうたずねた。
「うん。まぁそうかな」
「そうなんだ。大変だね」
自分は毎日遊び呆けているのに、未来は仕事づくしな毎日な事を陽太は純粋に凄いと尊敬した。
「うん。でも撮影って楽しいし、それにロケもあるから。あ、ロケでね、広島に行くんだ。陽太行った事ある?」
「広島?広島は行った事ないな」
お好み焼きが有名なのは知ってるけどと、そう言う陽太に未来は笑って答えた。
「僕も。初めて行くからどんなとこかちょっと楽しみなんだよね。あ、お土産買ってくるね」
「まじ?ありがとう。楽しみにしてるよ」
気を付けて行ってきてねと、そう言ってくれた陽太に、未来はありがとうと笑顔を向けた。
※※※
広島の沿岸部。
バスから降りた未来は自然が広がる景色に目を奪われた。
「わぁ~っ、凄いっ!山が超近いっ」
瞳を輝かせる未来に、共演者の女性、歳の頃は20代後半の健康的で活発そうな雰囲気の高村真希は、くすっと笑いながら話しかけた。
「田舎はあんまり来た事ない?東京とは全然違うでしょ?空気が」
そう言いながらん~~っと背筋を伸ばす高村に、未来も見習って高く両手を広げあげた。
「はいっ。全然違いますね。凄い気持ちいいですっ」
「それは良かった。あ、撮影終わったら海の方も行ってみよっか?お散歩がてらに」
はいっ、行きたいですと、わくわくを抑えられずきょろきょろとあちらこちらに興味を示す未来を、高村は微笑ましく思った
昼下がりの撮影前。
海岸沿いを撮影場所まで皆で徒歩で向かっている時。
未来がテトラポットの上を渡り歩いていると
「気をつけろよ~。滑って転んで海に落ちるなよ~?」
50代半ばごろの、彫りの深い顔立ちの男、今野雅志が未来にそう投げかけた。
「は~い。わっ?!何これっ?ゴキブリっ?」
未来はテトラポットの上を張っていく虫に驚き、そして足を止めた。
「ん~?あぁ、違うよ。これはふなむしだよ」
未来の元まで来た今野は、未来が見つめる先の虫をみるとそう答えた。
「ふなむし…?うわっ?!めっちゃいっぱいいるっ。きもっ」
「はっはっはっはっ。虫は苦手か?」
「あ~、はい。あんまり…」
蝶々やてんとう虫などは全く平気だが、ゴキブリみたいなこの類の虫は好きにはなれないと未来は思う。
「都会っ子だなぁ、未來は。でも田舎も中々いいとこだぞ?特にここは海も山も近いし、遊ぶとこが沢山ある。でも東京の方がいいか?」
にかりと太陽のような笑顔を浮べ聞いてくる今野に、未来もつられてにこりと笑った。
「いや、田舎の方が全然いいです。なんか色々探検出来そうだしっ」
「はははっ。そうだよなぁ~。じゃぁちょっとだけおっちゃんと探検してくるか?」
今野は未来の肩をがばりと抱き、その肩をがしがし撫でながらそうたずねた。
「え?でもいいんですか?」
「あぁ、丁度時間あるみたいだし、ちょっと位なら問題ないだろ」
悪戯に笑う今野に、未来は瞳を輝かせ飛び跳ねた。
「やったぁ~っ。じゃぁ早く行きましょうっ」
海の方へ行こうか、山の方へ行ってみるか、今野の言うようにどこへいっても探検しがいのありそうロケーションに、未来は胸を高鳴らせた。
「はい、OKっ。じゃぁ10分休憩入れて次のシーン移りまぁす」
未来と今野にそう投げかけると、湊はもう一度先程とった映像の確認を行った。
海岸沿いを歩きながら談笑する未来と今野のシーン。
ただそれだけだが、だからこそ役者の腕が浮き彫りになる。
自然体な二人のやりとり。だが二人ともしっかり役を演じている。
湊はうんうんと、二度頷いた。
とても良い。流石に天才子役と言われてるだけあって、未来はいい演技をする。
やはり名は伊達じゃないというところか。
しかしながら、だからこそ勿体ないなと湊は思う。
だってこれからもっともっと経験を積めば、未来は本当にいい役者になるだろう。
なのになんでオリバーに入ったのだろうと湊は首を傾げた。
もっと俳優業に力を入れてる事務所に入ってくれれば良かった。
そうしたらこちらもオファーがしやすいというもの。
アイドル・アーティストがメインのオリバーでは、役者は傍らだ。
未来を役者一本にさせられないのが本当に勿体無い。
未来の役者としての将来が、凄く楽しみなんだけどなと、湊はそう思った。
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