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第86話

昼食を済ませた後、琉空は未来の家に訪れていた。 チャイムを鳴らし未来に出迎えてもらい玄関に入ると、そこにはおめかしをしたありさが丁度靴を履いている所だった。 「お邪魔しまぁすって、あれ?ありささん、どっか行くんですか?」 「いらっしゃい、琉空君。そうなの。友達と映画見に行ってくるわね」 おばさんいないけどゆっくりしてってね?と、そう言って出て行くありさを見送った後、未来と琉空はリビングへと入っていった。   「で?どうだった?広島は。楽しかった?」 未来にもらったファンタグレープのペットボトルをごくりと飲みながら、琉空は未来にそうたずねた。   「あぁ、うん。すっごいいいとこだったよ。海も山も近いし自然いっぱいで」 「へ~、そうなんだ」 「まぁ、仕事だから当たり前だけど観光はしてないし、色々口煩い人もいたからのんびりも出来なかったけど。でも今度はプラベで行ってみたいな」 そう思えるくらい広島は、未来にとって魅力のある場所に感じた。   「ふ~ん。なら俺も連れてってよ」 「あぁ、そうだね。今はまだ無理だけど、高校生とかになったら行こうよ」 未来はお茶受けにとありさが用意してくれていた、手作りのクッキーを頬張りながら琉空を誘った。   「いいねぇ~。でも勿論旅費はお前持ちだよね?」 「は?何でそうなるのっ?」 「何でって、良いじゃんそれくらい奢ってくれたって。お前稼いでるんだしさ~」 復帰したての子役といえ元天才子役。 ぽんぽんと仕事もこなしているし、二人分の旅費くらい屁でもないだろうと琉空は思ったのだが 「あ~、そういう事。でも悪いけど無理だよ。僕のギャラは全部母さんが管理してるし、いっくら僕が稼いだってお小遣いには左右されないと思うから。自分の旅費だって母さんに貰えなきゃ行けないし、琉空も出してもらいたいなら僕じゃなくて直接母さんに交渉してよ」 さらりとそんな事を言う未来に、琉空は思わず言葉を飲み、そしてジト目を向けた。   「っなっ、そんな図々しい事出来るかっ。それなら自分の母さんに頼むよっ」 「あ、そ?」 確かに図々しい頼み事だと未来も思う。 だけどありさが琉空の事をとても気に入っている事を知っていたので、琉空が頼めば母さんは出してくれると、未来はそう思った。 だがしかし、自分も一緒に行きたいと言いそうだなと、未来は心中で苦笑いした。 というのもありさは旅行が大好きで、アメリカに居た時は頻繁に行っていた。 しかしそういえば、日本に戻ってからはまだ一度も旅行に行っていなかった事を未来は思い出す。 それどころか、最近はありさと二人でどこにも出掛けてない事にも気づいた。 未来は思った。この撮影が終わったら、どこかに行こうと母さんを誘ってみようかなと。 まだ自分が連れていってあげる事はできないが、しかし一緒の時間を過ごす事は出来る。 ただでさえ母さんも父さんが居なくて寂しいと思うし、たまには自分が父さんの代わりになってあげなきゃと、未来はそう思い、旅行の計画を決意した。 ※※※ 両親の離婚で東京を離れ、母の実家で暮らすことになった主人公の千秋。 田舎の学友達とは中々反りが合わず馴染めない。 ある日裏山に光と共に何かが堕ちていくのを見た千秋は、次の日一人で裏山に入った。 するとそこには傷ついた狐の様な男が倒れていた。 千秋は恐怖を感じながらもその狐男を介抱していると、千秋のその優しく勇気のある行動に何かを感じた狐男は、この地球の為、人類の為に力を貸してくれと頼んだ。 狐男が言うには今狐男や雪男、河童だったり化け猫、加えて大昔から生きている動物の長達の中で、人間に恨みを持つものと人間に友好的なものの間で争いが起こっているという。 恨みを持つ物達は人間を滅ぼそうとしている。 だから人間と共に生きたい狐男達はそれを阻止したい。 そして千秋も人間と狐男達の為、悪い化け物と戦う事を決意していく。 そんなストーリーのこの映画。 未来は裏山撮影の一部を先日広島で行ったのだが、今回はスタジオでその撮影を行う予定だ。   「うわぁっ!やばっ!凄いっ!本当の森だっ!うっわぁ~、凄っ!まじで凄いですねっ」 狐男、安藤との裏山でのシーンは、2、3日なんかで撮り終えれるものではなく、広島で撮影を行った山の一部を、スタジオで再現して何パターンも撮って行っていくと未来は聞いていた。 聞いていたのだが、その再現のクオリティは想像以上で、純粋に美術スタッフを凄いと感動してしまった。 「あはははは。ありがとう。そんだけ驚いてくれるとこっちも頑張ったかいがあるよ」 「そりゃ驚きますよっ。あの、ちょっとだけ探検してきちゃ駄目ですか?」 奥の方は入口付近からでは見えず、どうなってるのか気になった未来は、美術スタッフの男性にそう伺った。   「いいよ。でも危ないとこもあるから怪我しないようにね?」 「はぁ~いっ。ありがとうございます」 そう言って未来は広島にあった森と殆ど変わらなセットの中に、うきうきとした足取りで入っていった。 そして見た目は本物の木そのものの幹の部分にそっと手で触れながら、広島での事を思い出した。 旅館で食べた料理が美味しかった事や、素晴らしかった自然の景色。 そして未来は思った。広島に母さんを誘おうと。 少し遠いが一泊すれば問題ない。 それに広島なら少しは自分が案内できるし、ありさも絶対に気に入るだろうと未来は思う。 そう思うととても楽しみで、未来はありさの喜ぶ顔が早く見たいとそう思った。

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