85 / 100
第87話
今日からスタジオセットでの撮影が始まる。
早朝から集まったスタッフと役者達に、まず監督の湊が挨拶をした。
「え~、今日からの撮影にはどのシーンにもCGが入ってきます。見えない相手、物との撮影はCGに慣れている方でも動きにくいと思いますが、妥協はせずにいきたいと思いますので宜しくお願いします」
湊の話に出たCG撮影。
未来は過去に少しだけ使った事はあったが、少し苦手だなと感じていた。
だがそんな事は言っていられない。
頑張って湊の想いに応えなければと、未来は心中でそう意気込んだ。
大きな岩を避けるシーン。
未来は緑のシートで覆われたスタジオで、駆けたり転んだりを何度か繰り返し行っていた。
「未來、もう少し大きく動いていいよ。演技もちょっとオーバー気味にしてみてくれる?」
「あ、はい」
湊の指示に大人しく従うが、未来としては結構オーバーリアクションをしているつもりが、まだ足りない事に戸惑いを感じてしまう。
というか最早加減がさっぱり解らない。
もっとオーバーにオーバーにと言われても、やり過ぎてくどい演技にはしたくないと未来は思うがしかし、湊がそれを望むなら、それも仕方ないのかなと、未来はどこかもやついた気持ちで思った。
※※※
レッスン日。
未来は休憩時間を大和に蒼真、綾人とそして流星と共に雑談をしながら過ごしていた。
「どう?撮影は。順調に進んでる?」
ポカリスエットを口に飲み込んだ後、大和はそう未来に質問した。
「あ~、はい。一応。でもCGが多いからちょっと大変です。どう動いていいか正直全然解んないし…」
眉を下げて話す未来に、流星は天才子役にも苦手な事はあるのかと、少し意外に思ったが当然といえば当然。
「そうなんだ。まぁでもそうだよな。見えない相手と演技しなきゃいけないんだから、そりゃ大変だよな」
「そうなんですよね~。でも監督も共演の人もスタッフさんも皆いい人だし、撮影事態は凄く楽しいんですけどね」
にこりと今度は綺麗な笑顔で未来が言ったので、大和はなら良かったとほっと胸を撫で下ろした。
「そっか。でも撮影が楽しいのはいいけど、夏休み潰れちゃうのは悲しいな。だってどっこも行けてないんだろ?」
「あぁ~、まぁそうですね」
「映画の主演とか羨ましいけど、でも夏を満喫出来ないのはちょっとな…」
確かに毎日撮影があるので、どこかに遊びに行ったりとかは出来ていない。
なので蒼真の言うように夏を満喫はしていないが、しかし
「あ、でもロケで広島行った時、海とかでちょっと遊びましたよ?」
今野と海や山を少し探検したり、高村とも海岸沿いを散歩したりした。
未来はそれを思い出して言ったのだが
「いや、でもそれは仕事の合間にだろ?」
「はい、まぁそうですけど…」
眉を下げて曖昧な笑顔を浮かべる綾人に、未来はきょとんと答えた。
「普通の子なら色々遊びに行ける時なのに、偉いな、未來は」
そう言って頭をぽんと大和に撫でられて、未来はなんだか擽ったい気持ちになり声を出して笑った。
「ははは。でも撮影も本当に楽しいですから」
だから辛いとかないですよと、未来は心からそう思って答えた。
だって自分は友達と遊んだりまったりしているより、芝居したりレッスンを受けたりしていた方が楽しいって思ってしまう。
だから今に特に不満はない。
でも皆からこの状況を偉い、凄い、大変だと、そう言われるとなんだか少し損をしているような気にもなってくるが、しかし、そんな事はない。
今の頑張りがきっと将来の自分の夢に繋がるはず。
だから損じゃなくてこれは得だと未来は思い改めた。
それに好きな事をして好きな事を出来るようにもなるんだから、こんなラッキーな事はない。
そうだ。他人は他人、自分は自分、頑張ろうと、未来はそう自身に言い聞かせた。
ともだちにシェアしよう!