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第94話
夏休みが明けて未来の通うアメリカンスクールは新学期を迎えた。
始業式が終わり未来が琉空とクロエと共に、教室に戻るため渡り廊下を歩いていると
「あぁ~、もぅ気分悪っ。なんで私が未來の嫉妬なんかされなきゃなんないわけ?こんなガキ臭い男全然タイプじゃないんだけどっ」
不愉快に顔を歪ませ苛苛とした口調で言うクロエに、未来は声を大にして抗議した。
「っだったら、僕の傍にいなきゃいいんじゃない?悪いけど僕、人気あるからっ」
「それっ、本当信じらんない。何がそんなにいいのかしら、こんなお子様のっ」
クロエは瞳を見開き首をふり、有り得ないと前身を使って訴えると、当たり前のように未来が言い返した。
「いいとこなんてありすぎるくらいだよっ。それが解らないクロエの方が僕には信じらんないっ。もしかしてB専なの?」
「はぁっ?本当図々しい男ねっ。あんたどこまで自惚れてんのよっ」
信じられないものを見るような表情を浮かべるクロエに、未来はふふんと鼻をならしてクロエを見やった。
「あのね、クロエ。自惚れじゃなくて現実。日本じゃ常識だから、覚えといた方がいいよ?」
そう言ってドヤ顔をこれでもかというほど晒してくる未来に、クロエは奥歯をギリリと鳴らし眉間に深い皺を刻んだ。
「っくそうざいっ!そんな常識絶対間違ってるっ」
そう訴えながら地団駄を踏むクロエと、スタスタと鼻歌交じりに歩いて行く未来を見て、琉空は静かに一人頷いた。
成る程、こういう事か。
琉空は未来からの悪い知らせを今思い出した。
確かにこれでは、平穏でなどいられそうにないと、琉空は先行きを案じながら乾いた笑みを浮かべた。
※※※
学校が終わりその足で、未来の家へと向かった琉空とクロエ。
三人が玄関を開けるとありさが、待ってましたと玄関で出迎えた。
「クロエ~っ、久しぶりっ。まぁ~っ、綺麗になっちゃってっ。会いたかったわっ」
がばりとクロエを抱きしめ、頬にキスをおくるありさに、クロエも同様にありさを抱きしめた。
「久しぶりです。でもありささんこそ相変わらず綺麗ですね」
「まぁっ。ありがと。さぁさぁ、上がって~」
用意しておいた来客用のスリッパをそそくさと広げて、ありさはにこやかな笑みを浮かべた。
ありさとひとしきりリビングで話したのち、未来達は場所を未来の自室へと移動した。
部屋の中央にあるテーブルを囲んで三人は床に座り、ただの雑談をしながらTVを見たりしていると、ふいに琉空が話を切り出した。
「そういえばどう?映画の撮影は。いい感じ?」
琉空はありさが用意してくれたポテトチップスをぱりっと食べながら、ちらりと未来を見た。
「え、あぁまぁ、そこそこね」
「ふ~ん、でももうそろそろ終盤でしょ?夏休み中ずっと撮ってたんならさ」
未来から夏休みは撮影ばかりと聞いていた事をを思い出したクロエがそう言うと、未来はこくりと頷いた。
「うん、そだね。でもこれからがメインっていうか重要なシーンだから」
「まぁそりゃそうだろうな。アクション映画なんだから終盤が見せ場になるのが普通だし」
そうでないアクション映画を琉空は見たことがないし、アクション映画を謳いながら最後にそういったシーンがないなんて嫌すぎると琉空は思う。
「それもそうね。でもあんた大丈夫?結構どんくさいんだから怪我とか気を付けなさいよ?」
したり顔で言うクロエに、未来は邪魔くさそうな表情を浮かべた。
「っ解ってるよっ。ってかしないよそんな、僕プロなんだからっ」
「あ~、そ。怪我して動けなくなっても看病してあげないからね?」
「全然いいよ。クロエに看病されたらもっと悪化しそうだし」
「何ですって~っ?」
「何だよっ」
今にもお互い掴みかかりそうな勢いに、渋々琉空が制止の声を上げて二人の仲裁に入った。
「止めろよっ。一々お互い突っかかるなってっ」
それでもお互い睨み合っている二人に、琉空はこっそりと小さなため息を吐いた。
はぁ~っ、ったくもぅっ。本当に先が思いやられるなと、琉空は思った。
この二人との今後の日常生活、果たしてやってけるだろうかと、琉空はげんなりとした表情を浮かべた。
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