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第95話
撮影スタジオにある衣装部屋。
そこで未来はスタイリストの女性に新しい衣装を着せて貰っていた。
「ちょっと後ろ向いて?」
「あ、はい…」
「はい、こっち向いて?うん、よしっ、完成っ」
ぐるりと一周回って着せられて、最後にベストの前紐を綺麗に結んで貰い出来上がった。
赤をベースにゴールドと黒の刺繍やら飾りが施された、どこか中華っぽいこの衣装。
未来は鏡に映る自分の姿を見て感嘆の声を漏らした。
「うわぁ、凄いっ!」
「未來君用意できましたぁ~っ」
スタイリストの女性の大きな声と共にスタジオに入った未来は、初めて着る今まで着たことのない派手な衣装に、何となく気恥しい気持ちと、果たして自分に似合っているのだろうかという気持ちからそわそわとしていた。
そんな未来を見つけた今野が明るい表情を浮かべ、最初に未来に話しかけた。
「おぉっ。いいじゃん、未來っ」
「あはははっ。すげーっ、めちゃ似合ってるっ」
今野の隣りに居た安藤もまた、未来の姿に満面の笑みを浮かべ評価した。
「ほ、本当ですか?」
二人から良いと言われても、なんだか素直に信じられない未来は未だ不安な表情でそう聞き返すと
「うん、格好いい格好いいっ。本当に似合ってるよ」
ぽんぽんと未来の背中を優しく叩きながら褒めてくれた今野に、未来はようやく少しづつ自信を持ち始めた。
「そ、そうですか?ありがとうございます」
「良かったなぁ、未來。変身できたじゃん、お前も」
安藤らの特殊メイク姿を初めて見た時、変身したい変身したいと喚いていた事を思い出し、未来は遠くの鏡にちらりと映る自身の姿を今一度確認し、確かに変身出来てると思うと自然と笑みがこぼれでた。
「一応替えはもう一着あるけど、でもなるべく汚さず傷つけず、気を付けて着てね?結構お金かかってるからこの衣装」
少し着崩れた箇所を直しながら言うスタイリストに、未来は咄嗟に気をつけますと返した。
そして改めて衣装に目を向けると、確かに刺繍などがこれでもかという程沢山入っているし、言われてみれば生地も高そうな気がして、急に体が強ばった。
折角の衣装を大事にしたいし、何より怒られたくない。
まじで気を付けようと未来はそう思った。
※※※
合同レッスン日。
レッスン室に未来が入ると、この日も一人見知らぬ少年が未来の元へ掛けて来た。
「初めまして。今月からOクラスに入った都築唯斗(ゆいと)です」
小柄な体つきに可愛らしい顔つき、癖のない綺麗な黒髪が印象的な唯斗は、緊張した面持ちで未来に頭を下げた。
そんな唯斗に未来は努めて柔らかい笑顔で話しかけ、少しでも彼の緊張を解してやれればと思った。
「こちらこそ宜しくね。敬語とか気も使わなくていいから仲良くやろうね」
未来の天使の笑みを目の当たりにして、思わず見蕩れてしまう唯斗を他所に、未来は思った。
それにしても一気に新人が入ってきたなと。
唯斗にしろ蓮にしろ、なかなかにビジュアルが良くしかも同年代。
普通だったらきっと焦ったりするのだろうが、自分は普通ではなく天才だ。
そもそも誰も自分のライバルにはなり得ないと、そう思った未来は未だ顔を赤くしている唯斗と共に、部屋の中央に移動した。
午前のレッスンが終わり昼休憩を陽太と蓮と過ごしていた時。
話題は未来の映画の話になり、未来はそうだと徐にiPhoneの画像から昨日の衣装を着た写真を二人に見せていた。
「わぁっ、凄いっ。格好いいじゃんっ」
コスプレみたいで凄い変わった衣装だなと思うがしかし、何故だか未来によく似合っていると陽太は思った。
そして陽太のよく似合ってるの何千倍そう思った蓮が、興奮度MAXではしゃいでいる。
「超可愛いっ!ね~、未來、俺にも送って欲しいなっ、この写メっ」
瞳をきらきらと輝かせ、お願いお願いと子犬のようにせがんでくる蓮に、未来は困ったような笑顔を浮かべた。
「え?良いけどでも、他の人に見せちゃ駄目だよ?これまだ一応報外秘だから」
「見せない、見せないっ!絶対見せないからお願いしますっ!」
土下座しそうな蓮の勢いに、未来はぎょっと目を見開くが直ぐににこりと笑ってiPhoneに指を這わした。
「良いけど、でもこんな写メが欲しいなんて、本当に蓮って僕の事好きだね」
「うんっ、大好きっ。超愛してるよ、未來っ」
抱きつきそうな蓮のテンションはまさにしっぽを振って飼い主に媚びる子犬そのものだと、そう陽太は思った。
「ははっ。ありがと。じゃぁこれからもずっとファンでいてね?」
「勿論だよっ。俺は一生未來一筋だからっ」
真っ直ぐな濁りのない瞳で未来を見つめる蓮に、彼は声を出して笑い面白いと評するが、陽太はそれをどこか覚めた目で見つめた。
ファン、と未来は言って、蓮もそれを否定はしなかったが、果たして彼の気持ちは本当にただのファンのものだろうかと陽太は思う。
だって蓮の未来への熱狂ぶりは中々に異常に思えてならない。
が、そう思った所で陽太は改めた。
というかそういう事にしておきたいと思った。
関わるとなんだかろくな事がなさそうだと、陽太の防衛本能がこの時働いたのだった。
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