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第98話

閑静な住宅街。 街路樹が綺麗に植えらた歩道を未来と海斗は並んで歩いた。   「あ、ここ右です」 「あ、右?ってか結構駅から距離あるね。暗いし人通り少ないし」 時折車は走っていくが、22時に近い時間帯のせいか、駅から歩く人は2,3人程しか見ていなくて、これは子供一人じゃ危ないなと、海斗は心中でそう思った。   「すみません、あ、でももう後5分くらいでつくんで」 「あぁ、そうなの?でもお前、俺が言うのもなんだけど、絶対一人で帰っちゃ駄目だよ?危ないから」 駅に着くやいなや、先程もホームで気付かれて囲まれそうになったのを思い出して海斗は言った。 「はい。解ってますよ。今は撮影中だから絶対怪我なんか出来ないですから」 にこりと笑って話す未来に、海斗は眉を下げて突っ込んだ。   「いや、俺は撮影とか関係なく言ってるんだけど」 「はは、解ってます。でもありがとうございます。心配してくれて」 無邪気な瞳を向けてくる未来に、海斗はバツが悪そうに眉をしかめ俯いた。   「っ、お前さ、俺の事うざくないの?」 「え?」 「さっきも嫌な態度とったし、それに前の時もっ…。普通うざいって思うだろ?だってお前は俺にやつ当たられてるだけで、悪くないんだからさ」 自覚はいつだってあった。 だけどそれを認める事はしたくなかった。 だって認めてしまったら自分が凄く惨めに思えて、海斗はそんな自分を直視出来そうになかったのだ。   「ん~、あ~っと、そう、ですね。普通ならうざいって思うと思います。でも、僕海斗君の事好きですから」 「は?」 言われた台詞に意表をつかれ、海斗は思わず顔をあげてぽかりと口を開けた。   「Oクラスの、同じクラスじゃない先輩の中で、最初の頃からいつも僕に話しかけたりしてくれたし、あ、勿論他の先輩も皆優しいですけど、何ていうか、僕に対してちゃんと興味を持ってくれてたのは海斗君だけだったと思うから。だからそういうの凄く嬉しかったです。天才子役としてじゃなくて、ちゃんと加藤未來に興味を持ってくれる人って中々いないですから」 どこか悲しそうに、頼りなく笑う未来を海斗はただただ見つめていた。   「だから、海斗君だったから、海斗君だったからうざいとは思わないです」 はっきりとそう言ってくる未来に、海斗はやっと自分がしてきた落ち度を認める事が出来た。   「っ未來、ごめん。俺、まじでごめんなっ」 苦しそうに眉を寄せて、何度も謝ってくる海斗に未来は瞳をぎょっとさせ彼に近寄った。   「そんなっ、全然いい、いや、よくはないや。僕悲しいですから。あぁいう態度とられると」 海斗を宥める為に、彼の腕に添えた未来の手が、その腕にきゅっと力が込められた。   「海斗君とは前みたいに仲良くしたいです。僕、海斗君にむかつかれないように本当に気を付けますから、だからまた、僕とまた前みたいに仲良くしてくれませんか?」 縋るような未来の眼差しと、少し強く未来に握られた腕が海斗の胸を熱くした。 海斗はすぐさまその手を取って、何度も何度も頷きそして謝った。 本当はもっと早く言いたかった、ごめんねの言葉を。   ※※※   「何だそれっ。胡散臭っ。まさかお前、超いい子っ、とか思ってないよな?」 家に帰り先程の未来との出来事をすぐさま相談相手の斗真にした所、呆れた口調で彼はそう言ってきたのだ。 「えっ?何で?超いい子じゃん。どこがどう胡散臭いっていうの?」 だが海斗にはまるで斗真の気持ちがわからなかった。 むしろ本当に自分の話をきちんと聞いていたのだろうかと疑いたくなるレベルで、斗真と海斗の気持ちは真逆だった。   「全部っ。お前を上手い事ほだす為の演技だよそんなのっ。思ってもない言葉だって絶対っ」 「なっ、ほだすって…。何でそんな事言うの?ってか思うの?斗真君未來の事誤解してるよ。未來はそんな性格悪い子じゃないよっ?」 必死に未来を庇う海斗に、斗真はまんまとほだされてるわと心中でそう思いながら口端を引き攣らせた。そして   「はっ、そうかな。今頃どうせ、お前なんてちょろいなって思われてると思うけど?」 小馬鹿にしたようにそう言われて、海斗は思わず言葉を失いそして固まった。 しかし斗真になんと言われようとも、ちょろいなんてそんな事未来が思うわけがないと、海斗はそう信じてやまなかったのだった。

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