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第99話

撮影スタジオの片隅。 未来は監督の湊から、今後の撮影スゲジュールとその内容についての説明を受けていた。   「コマ撮りで撮っていくしそんな高度なアクションはないから安心して?でもその分一つ一つの動きには拘りたいからしっかり覚えてね?」 「はい、解りました」 にこりと笑いそう元気よく返事をした未来だったが、心中ではがくりと肩を落としていた。 というのも未来はアクション映画に自分が出ると聞いた時より、激しいアクションが出来る事を勝手に期待していたのだ。 なのにワンカットずつ撮ると宣言してきた湊に、すっかり意気込みは拍子抜け。 それどころかコマ撮りで撮るのに稽古なんているの?いや、要らないでしょと、そんな思いすら込み上げてしまっていると   「未來く~ん、稽古の時はこっちの剣使ってね?」 そう言って一本の日本刀を手に持ちやって来た小道具の男性に、未来はにこやかに返事をした。   「あ、はい。解りましたぁ。うわっ、これもでも格好いいですねっ」 「本当?そう言って貰えると寝る間を惜しんで作った甲斐があるよ」 煌びやかな装飾はないが、だからこそ本物の日本刀に見えるその剣を未来に手渡し、男は眉を下げて肩を揉みながら言った。   「あはは。じゃぁなるべく大事に使いますね」 「はは、ありがと。頑張ってね」 「はい、頑張りまぁすっ」 プラスチックで出来ている、驚くほど軽い剣をしっかりと両手で持ち、立ち去っていく小道具の男の背中をぼんやり見つめながら未来はひっそりとため息をついた。 映画の撮影にドラマの顔合わせ、出会う人々は殆ど年上、それも何歳も上で、流石の未来もそれらの人々にいい子ぶりっこで接する事に疲れを感じはじめてきた。 しかしながら今更止める事は出来ないししたくない。 なぜならこのキャラは何かと得をする。 良い例が昨日の海斗だ。 自分の完璧な演技でもう海斗は完全に絡んでこなくなると未来は思う。 あんな健気な子今時いるわけがないのに、すっかり信じてしまった海斗の事を、未来は単純だなとそう彼の顔を思い出していると 「未來く~んっ。準備出来てたら稽古始めよっか~っ?」 「はぁいっ!今いきまぁすっ」 少し遠くから呼ばれた声に、未来は元気良く返事をしながらそちらの方へと駆けだした。 いい子な自分は中々に疲れる。 けどでも、マイナスになる事は絶対ない。 だから頑張ろうと、未来は自分に喝を入れた。   ※※※   次の日の学校。 未来は教室に入り荷物をロッカーへと押し込むと、既にお決まりの席に座る琉空とクロエの元へと向かった。   「やっばいっ。超筋肉痛なんだけどっ。腕がパンパンっ」 挨拶もろくにせず、開口一番にそう言って椅子に座る未来に、琉空はニヤリと少し悪戯な笑みを浮かべた。   「へ~、やっぱ結構激しいんだ?アクションシーン」 「いや、結果激しく見えると思うけど、でも撮影事態は超地味だよ。ワンカットスローで撮ってるから全然難しい事とかはしてないし」 未来は昨日の撮影を振り返りそう話すと、クロエが小首を傾げて疑問を言葉にした。   「ふ~ん、そうなんだ。でもじゃぁなんでそんな打撃受けてんの、あんたは」 そう聞いたクロエに、未来は待ってました、聞いてちょーだいと言わんばかりに勢いよく話しだした。   「それがさ、めちゃめちゃ拘るんだよね。監督が一つ一つの動きに。単純に剣を降り下ろすだけの動きを僕が何回させられたと思う?稽古いれたら軽く五百は越えてるから絶対」 興奮気味に話す未来に、琉空は宥めるように眉を下げて笑った。 「成る程。そりゃ筋肉痛にもなるわな」 「はぁ~あ~。筋肉痛になるならなるで、もっと違った経緯でなりたかったのに」 むすっとあからさまに不満をあらわにする未来に、クロエが疑問符を浮かべた。   「違った経緯って?」 「ワイヤーアクションとか、なんか難易度高い感じの事してなる予定だったって事」 ため息混じりにそう言う未来に、琉空とクロエはなるほどと、未来の気持ちもわからなくないと、そう思った。

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