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第3話

 道に出ると、お百度石にすがりつくようにして立っている着物を着たお婆さんに気付いた。 「どうかしたんですか」  急いで駆け寄ると、お婆さんはよろよろと顔を上げた。 「腰が、ぎくっとなってしまって」 「ぎっくり腰ですか。歩けないんですか?」  お婆さんは寂し気に頷いた。 「いつもなら家の者がついているのですが、今日は忙しい日だから一人で出て来てしまったの。どうしましょう、二度と家に帰れないかもしれないわ」  今にも倒れてしまいそうで心配した広夢はお婆さんの肩にそっと手を置いた。 「大丈夫、僕がお送りします。おぶさってください」  背中を向けてしゃがむと、お婆さんは広夢の背中にすがりついた。脚の下に腕を回して立ち上がる。 「あいたたたたた」 「大丈夫ですか?」 「ええ。気にしないで。よろしくお願いします」  お婆さんは小柄で驚くほど軽く、すいすいと歩けた。 「この路地を左に入って」「次の角を右」「階段を上ってね」  言われるままに竹林を歩いていくと、どんどんと道が広くなっていく。だがアスファルトも石畳もなく、地面が剥き出しだ。轍の後はなく、車が通る道ではないようだ。 「ここですわ」  突然、目の前に立派なお屋敷が現れた。赤い柱と瓦屋根、真っ白な壁には汚れの一筋もない。建物自体が発光しているかのように明るい。 「お方様!」  屋敷の中から細身の青年が駆け出してきた。この青年も和服姿だ。 「心配しましたよ。お一人でどちらへいらしていたのですか」 「ごめんなさい、明彦(あきひこ)。ちょっと散歩に出ただけだったのだけど、犬に吠えられて驚いて道がわからなくなったの」  明彦と呼ばれた青年は広夢に視線を移した。吊り目で冷たそうにも見えるが、物腰柔らかく、良家の出とはこういう人のことを言うんだなと広夢はぼんやりと思った。明彦はお婆さんを引き取り、抱き上げた。 「この方が助けて下さったの」 「母が大変お世話になったようで、恐れ入ります」  お婆さんの言葉を聞いて深々と頭を下げる明彦に、広夢は慌てて両手を振ってみせた。 「いえ、大したことはしてませんから」 「お疲れでしょう、どうぞ中へ。お茶など差し上げたい。もう遅いですし、よろしければ泊まっていただいても」  広夢は断ろうとまた手を振ろうとしたのだが、なぜか口が勝手に開いた。 「泊まります」 「それは良かった」  明彦が細い目をさらに細くして笑った。

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