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第4話

 通された部屋は見たこともないほど豪華だった。襖は金箔貼りで天井のシャンデリアの明かりを反射している。畳の部屋だが毛足の長い絨毯を敷いて、猫脚の応接セットが据えてある。  落ち着かずきょろきょろしていると、案内してくれた紅色の和服姿の女性が「どうぞ、おかけください」と声をかけてくれた。  ふかふかの絨毯を踏んでふかふかのソファに座ると、すぐに襖が開き、ティーセットが運ばれてきた。運んできたのは明彦だ。 「どうぞ、召し上がってください」  紅茶と真ん丸な黄色のお菓子を出されたが、緊張して手をつけられない。 「あの、お母さんの腰は……」 「今、鍼を打っております。すぐに回復するでしょう」  ほっと息をついた広夢の側に膝をついて、明彦はその手を握る。 「本当にありがとうございました。あなたがいてくださらなかったらと思うと恐ろしい」 「そんな、大げさですよ」  明彦は広夢の両手を胸に抱き、じっと目を見つめる。 「本当です。母のことだけではない。私はもう、あなたなしでは生きてはいけない」 「は?」  自分をじっと見つめるその視線に既視感を覚える。三年の先輩が、クラスメイトが、担任の教師が、広夢に迫ってきた男たちが広夢を見つめるときの視線と同じだ。やばい。 「一目で恋に落ちたのです。どうか、私と結婚してください」 「俺、男ですよ」 「知っています。性別なんかどうでもいい、あなたとひとつに繋がりたい。あなたが恋しい」 「まだ子どもだし」 「関係ありません。大切にします」  広夢は心の中で叫ぶ。恋人が出来たって、男じゃ意味ないです! 鳳神社の神様―! 助けて―! 「息子どの、広夢を返してもらおうか」  いつの間のことか、部屋の襖がすべて開け放たれていた。部屋の外には真っ暗な闇。すぐそこに竹林がある。玄関から部屋まで通ってきた廊下も、部屋に面して広々していた庭もなくなっていた。 「ホウ様、邪魔をしないでいただきたい。これは私と広夢の問題なのです」  真っ暗な竹林から狩衣姿のホウが歩み出た。 「嫌がるものを無理やりとは感心せんよ」 「嫌がってなどおりません。恥ずかしがっているだけです」  嫌だよ! 叫ぼうとしたが、口が動かない。なにかに操られているように腕が伸び、明彦の首に回される。ゆっくりと抱き寄せ、明彦の口が近づいてくる。  なにしてるんだ、僕は! 嫌だ、嫌だ、嫌だってば! 心の中で騒ぎながら、なぜかしっかりと明彦に抱き着いて離さない。 「はい、そこまでだよ」  ふわりと甘い香りに包まれたかと思うと、次の瞬間にはオレンジ色の狩衣の腕に抱きすくめられていることに気付いた。 「私の氏子を好き勝手にはさせないよ。それに君たちは稲荷神の許しがなければ嫁取りはできぬだろう」 「い、稲荷様には後ほどご報告を……」 「やめなさい、明彦。ホウ様に向かって不敬(ふけい)ですよ」  明彦の後ろにお方様が立った。 「申しわけございません、ホウ様。息子が大変な失礼をいたしまして」  深く頭を下げるお方様にホウが優しい声をかける。 「恋は人を狂わせる、仕方のないものさ。さて、広夢も返してもらった。私たちは引き上げるとしよう」 「ホウ様! お待ちください! 広夢どの!」  明彦の叫びと姿がどんどん遠くなり、闇の中にふっと消えた。

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