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気分はマリー・アントワネット

今日は日曜日で、仕事は休み。 伊伏光史朗(いぶしこうしろう)は友達とホテルのスイーツビュッフェに来ていた。 「うわあ、ステキ!!」 ロリィタファッションを通じて出会った女友達のアリカが、大きな猫脚のテーブルに並んだたくさんのスイーツを見て、歓喜の声をあげた。 テーブルの上にはリボンで飾りつけたピンクのマカロンタワー、カラメル色のクリームブリュレ、金縁の皿に盛られたラベンダー色のムース、グラスに入ったクリアグリーンのゼリー、ティースタンドに乗せられたクッキーやカヌレ、イチゴやブルーベリーで彩られたショートケーキ。 テーマは「マリー・アントワネットの仮面舞踏会」だそうだ。 壁にはフリルのカーテン、百合の紋章にアンティークデザインの額縁、薔薇の造花、仮面、レースの扇がディスプレイされていて、テーブルセットや食器もロココ調デザイン。 それに合わせて、光史朗もマリー・アントワネットのような豪華なロリィタ服を着てきた。 裾に3段もの切り替えがついたサックスブルーの姫袖ワンピース、花模様の白いレースタイツ、足の甲に当たる部位にリボンがついた猫脚ヒールのピンクのストラップパンプス。 髪型だってマリー・アントワネットを意識して、ボリュームのあるプラチナブロンドのウィッグをかぶり、編んだりピンで留めたりして、髪を盛った。 その上でさらに、薔薇のコサージュとイミテーションパールがついたサックスブルーのキャノティエをかぶる。 首元には王冠が下がったパールチョーカー、指には金色のリボンのリング。 今日はパニエを4枚重ね履きしてきたから、スカートもふんわり膨らんでいる。 「ホント、ステキだねー……」 ホテルの天井からは豪華なシャンデリアが下がっていて、アリカと光史朗がついた席は、ブルーのインクボトルと羽ペンがディスプレイされている。 「うん、ホントにマリー・アントワネットの世界に来たみたい!」 向かいに座ったアリカが、楽しそうに辺りを見回す。 それと同時に、彼女が着ているピンクの姫袖ワンピースの袖と、ワンピースと同じピンク色のハーフボンネットが、少しばかり揺れる。 「パンもお菓子もあるから、好きなだけ食べればいいじゃない」 光史朗は冗談めかして、お菓子を盛った自分の皿を指差した。 「ははは!うん、食べよう食べよう!!」 アリカは光史朗の冗談に大笑いすると、フォークを握った。 「あ、その前に写真撮ろっと!」 光史朗はスマートフォンを取り出すと、カメラを起動させ、皿の上にキレイに盛りつけたスイーツを撮影した。 「急がないと、アイスクリーム溶けちゃうわよー?」 アリカがバゲットにコンフィチュールを塗りながら、光史朗を急かす。 「うん、もう食べるよ」 光史朗もティースプーンをつまみ、アイスクリームをすくった。 童話のお姫様がいるような空間で、2人は大いに食事を楽しんだ。 それだけに、嫌気がさすほどに地味な日常に戻るのが、光史朗にはとてつもなく苦痛だった。 今の自分は「お姫様」だが、現実の自分はどこにでもいる普通の男なのだから。 ──はー、現実つら…… アリカとの食事を終えた後、光史朗はため息を吐いた。

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