9 / 16
告白
小山は次の日も、またその次の日も、光史朗に「一緒に食事しよう」と迫ってきた。
「営業部の女の子たちと行ったら?あの子たちの何人かは、小山さんのことねらってるらしいよ?あと、うちの事務の子たちも、小山さんのことイケメンだって褒めてたし……」
いいかげん、ひとりで静かに食事したい光史朗は、それとなく小山に他の場所で食事するよう促した。
──悪い人じゃないんだよな……むしろいい人なくらいなんだけど…
「思ったより悪いじゃないのかも」という憶測は当たっていたには当たっていたが、予想に反した小山のこの言動には、少しばかりウンザリしてしまう。
「えー、別にいいよお。あ、ところでさ、伊伏さんが着てた服のブランド、名前はなんだっけ?ベイビー……」
小山は食堂のカウンターで頼んだしょうゆラーメンにまともに手をつけずに、ずっと話し続けている。
「えっと…ベイビー・ザ・スターズ・シャイン・ライトのこと?」
光史朗は、茶碗に盛られたご飯を一口分、箸でつまんだ。
「あ、そうそう、それそれ!」
小山はひとり納得したような顔をすると、スマートフォンを取り出していじりはじめた。
「これかな?」
小山が、持っていたスマートフォンの画面を光史朗に向けてきた。
画面には、光史朗が好きなロリィタファッションブランド「ベイビー・ザ・スターズ・シャイン・ライト」のホームページが映っている。
「そうだけど……」
光史朗は白米を口に放って、みそ汁を流し込んだ。
「すごいな、こんなにたくさんあるんだ。ベールついたカチューシャとか、バラとか羽がついたシルクハットとか……アクセサリーだけでもすごい金額だね。
フルでコーディネートするといくらかかるの?」
「モノとか、ブランドによるかも……」
サバの味噌煮をつまんでは口に入れ、つまんで口に入れを繰り返しつつ、光史朗は小山の疑問に答えた。
「へえー、まあ、5万くらいとか?ヘタしたら10万とかいく?」
「うん、まあ、それくらいかな…」
「あと、前に教えてくれたメタモルフォーシス?っていうブランド?あれのサイトも見たよ。和柄のロリータとかあるんだねー」
「うん、まあね。あのさ…ラーメン冷めちゃうよ?」
光史朗は、未だに手をつけられていないしょうゆラーメンの丼を指差した。
「え?ああ、そうだね。早く食べなきゃ!」
小山はスマートフォンを脇に置くと、割り箸をぱきっと割った。
「ね、伊伏さんって彼女はいないんだよね?」
言うと小山は、麺を箸でつまみ、息を吹きかけてラーメンの熱気を飛ばした。
「そうだけど……」
「じゃあ彼氏は?」
「いないけど……」
光史朗は、少しムッとした。
どうしてそんなことを聞いてくるんだろう?
前々から理解できない人だとは思っていたが、最近の言動は特にわからない。
一体、何が目的なのだろう?
「ね、よかったらなんだけど…」
小山が一端、割り箸を脇に置き、光史朗の目をジッと見つめた。
「何?」
それに続くように、光史朗も箸を置いた。
小山がコホンと咳払いをすると、その口がゆっくり開く。
「オレと、付き合ってくれない?」
ともだちにシェアしよう!