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落ちた男と落ちない男

 タクシー拾えば良かったかなぁとちょっとだけ後悔したのは、最寄り駅についてから、タイラさんの家までの道のりを半分程度こなした後だ。  駅近とも言い難いけど、まあ二十分くらい歩けば着くよね。っていうくらいの距離だ。都心なんてそんな感じの人ばっかでしょ? と思う。  おれは基本スポーツとかしないけど、最低限の体力くらいは維持するように生きている。仕事が仕事だし、無駄に背があるせいで多少筋力ないとすぐに腰とか足とか痛めちゃうし。  てなわけで、体力には若干自信があったわけだけど。 「……おっも~い」  調子の乗ってもらいまくった手土産が結構洒落になんないくらい重くって、おれの肩をぐいぐいと刺激した。  いつもは貰ってくることなんかないんだけどさ。おれ、あんまり他人から貰うモノ好きじゃないし。どうせ捨てるから要らないです~って素直に言うと大体次の機会には声かけられないし、なんかそれはそれで快適じゃん? って思うから常にそう言って断ってるんだけど。  今回はるばる足を運んだ地方のド田舎の体育館でおれに差し出されたのは、なんと大量の地酒だった。  打ち上げは参加されないときいたので、良かったら。  そんな風に出された瓶を眺めて『いやーおれが言うのもなんだけどさー普通電車で来た奴にこんな重いもんお土産に持たせなくなーい?』という本音は飲み込み、わー同居人がお酒好きですー、というちゃんと嘘にならない言葉を吐き出した。  嘘じゃない。タイラさんお酒好きだし、たぶんタイラさんが飲むし、なんなら喜ぶんじゃない? って思う。  別にタイラさんに酒与えなくてもおれは死なないし、断ってもよかった。重いし。絶対に重いし。でもさ、ほら、この前も庭でくねくねしている白い人間もどきみたいなやつに怯えてちょっと泣いてたし。……たまには、なんか貰ってハッピー! みたいになってもいいでしょ。  あとお酒飲ませて泥酔させんのも楽しいのでは? と思うし。うん。絶対楽しい。  でもなぁータイラさん、結構お酒強いんだよなぁー。おれは酒飲まないし、タイラさんだけにガンガン飲ませるにはどうしたらいいんだろう。うーん、トワコ退治よりも難題かもしれない。  なんてことを考えつつ、十秒に一回タクシー呼べばよかったーと後悔しつつ、やっと見慣れた平屋が見えて来た時にはすっかりあたりは暗くなっていた。  日が落ちるのはっやいねぇ。冬だもん。もう年末じゃん?  寒くなると人間は簡単に鬱になるし、暗くなるとさらにそれが加速する。  タイラさん大丈夫かなぁ、藍ちゃん居てくれたらいいけどなぁ。お昼に『タイラさん暇そうだし一緒に遊んであげてよ』ってラインしといたけど、藍ちゃんは無駄に察しが良すぎるから『トワコから守ってね』って意味だってきっとわかってくれているだろう。  藍ちゃんは人付き合いが悪い。おれに言われたかないだろうけど不思議な人だし、確実に変な人だ。  ……タイラさんは別にさ、相手が誰だろうが気まずいだろうけど、藍ちゃんも大丈夫かなぁ。  二人とも気まずくなって無言でお酒とか飲んでたらどうしよう――え、いや、それはそれで楽しいな? 心底嫌な顔した藍ちゃんはかわいいし、泣きそうなタイラさんは勿論最高だしなぁ。 「……あ。藍ちゃんいるじゃん」  藍ちゃんの愛車であるバイクを玄関横に見つけて、わーほんとに律義だなぁと感心する。  律義っていうかおれに甘い。  でも藍ちゃんとタイラさんてどんな会話してんの? お互い頭はよさそうだけどコミュニケーション能力の方向性が別ベクトルで変だしなぁ……とわくわくしながらガラガラーっと玄関開けると、なんだかすげー元気な笑い声が聞こえて来た。  ん。……んん? この男の声誰? ……まさか、タイラさん? え? タイラさんって声上げて笑ったりすんの? え、まじ?  ものすごい元気な笑い声は男女二人ぶんだ。  どっちも知り合いの筈なのに、どっちもおれが知らない声で笑っている。  えーちょっと、よくないよくない。おれだけなんか仕事してて可哀そうな気分になんじゃーん!  ずかずか歩いてバーンとふすま開けると、やっぱりそこには酔っ払いの園が広がっていた。  ……だと思った。なんか、どう聞いても声がねーラリッてたもん。流石に素面のタイラさんは、そんな声じゃ笑わないよ。 「あ、あーおかえりーモノル。早かったねぇ」 「えー早かないでしょもう七時だよーおれの予定では五時にはご帰宅だったの。ていうか藍ちゃんタイラさんに飲ませたのー?」 「飲ませたっていうか自発的に飲んだんだよタイラくんは」  ……タイラくん。へえ。ふーん。なるほどおれが想像していたより、二人の相性は良かったらしい。  へえ。ふーん。と思いながら酔っ払い達の惨状を一つずつ認めていく。  空になった瓶は五つ。(あれ全部日本酒でしょ? 日本酒のアルコール度数って結構高いよね? 正気? ねえ正気?)  食べ物らしきものは影も形もない。(うっそー空腹に日本酒ぶっこんだの? 正気?)  タイラさんは完全に焦点が合ってないし藍ちゃんはげらげら笑ってる。(コメントしがたーいなにこれ地獄?) 「……ごめんだけど、ちょっと引いたぁ。ねーほんとー昼間っから酒盛りはちょっとアレでしょー藍ちゃん仕事じゃなかったの?」 「ん? んー。今日は午前だけだよ。てかモノル帰って来たし、結構飲んだし、わたし帰ろっかな」 「うっわ。酔っ払い作って押し付けて帰んの? つーかタイラさんって酔うんだ……ちょ、やめ、ひっぱらない! ひっぱらないの!」 「ナガル、でかくて腹立つから、座れ」 「えーなにそれ。別におれが座っててもタイラさんは腹立つでしょー。酔っ払いは黙っててぇーくださーい」 「……ごめん、タイラくんわりとお酒強いみたいなんだけど、引っ張っちゃったんだよね。ついつい楽しくておいしくて、ペース落とし忘れた」 「ほらー! 藍ちゃんのせいじゃーん!」 「でも、あんたの依頼はこなしたよ?」  う。確かに、藍ちゃんのおかげで今日のタイラさんも無事に元気に過ごしているっぽい。  この家は相変わらずよくない。逐一除霊してるけど、ちょっとおれが目を離すとすぐにやばいもんで溢れかえる。  スーパーとかコンビニとか行くだけでも結構まずいから、あんまり家を空けないように気を付けてはいるんだけど、おれも働かないといけないわけで中々難しい。  今度から前日に言え、と言われて、適当にはーいと返事を返す。でもたぶん面倒くさくなって忘れたことにすると思う。手帳買えとかスケジュールアプリを入れろとかよく言われるけど、なんかもうその『揃える』ところから面倒くさいんだもの。 「別に泊まってってもいいよぉおれの家じゃないけど。部屋たくさんあるし。トワコいるけど」 「最後の奴が一番嫌だよ。帰るよ、馬に蹴られたくないからね」 「なにそれ。馬のユーレイでもいんの?」 「ユーレイじゃないし、たぶんまだいないけど」 「……おれが言うのも何だけどさぁ。藍ちゃんたまに、自分だけわかった顔して格好いいっぽいことドヤ顔で言うのよくないと思うよ?」 「まじであんたには言われたくないわ、それ」  じゃあねタイラくんまたね、と手を振って、藍ちゃんは颯爽と席を立つ。  藍ちゃんのいいところはいつでもテンションが変わんないところと、無駄話をあんまりしないところだ。  久しぶりに会っても元気だった? とかそういう近状報告はないし、しばらく会わないなぁってときもそんじゃまたねってさくっと帰る。うーんさっぱりしてていい。好き。  さっぱりした藍ちゃんは、床に転がっている生首をひょいっと跨ぎ玄関にたどり着き、上からぶら下がってる干からびた子供を当たり前のように避けて、そんで特別な何かもなく普通に帰って行った。  あ。お酒一本あげようと思ってたけど忘れてた。まあいっか。……ここに置いとけば、藍ちゃんの口にもいつか入りそうだ。  玄関に鍵かけて、干からびた子供に邪魔ーと塩振って、生首を蹴って転がして居間に戻……ろうとしたら廊下にふらっと出て来たタイラさんにぶつかりそうになったっていうかどこ行くのあなた! 「え、ちょ、タイラさんなに、トイレそっちじゃないよー?」 「…………ふろー」 「はあ? お風呂ー? え、そんなでれっでれに酔っ払ってんのに? え、死ぬでしょ? 死ぬってば。循環器とかに負担かかって死ぬってやめなって」 「シャワーだけにすっから……ふろ、はいる……」 「えええ……」  絶対やめた方がいいと思うんだけど、なんかこう、なぜか断固風呂に入りたいらしい。  酔っ払いのことよくわかんないなー。  おれ酒飲まないし、飲み会とかはまー誘われたら行くこともあったけど、段々呂律が回らなくなってきてげらげら笑う人間見てると動物園みたーいうるさーいみたいな気持ちになるだけだ。  タイラさんはぐらぐらしてるしふらふらしてるし顔真っ赤だけど、なんかいつもより楽しそうだ。  ふにゃーってしてるっていうか、警戒心がない。ちょっとだけつまんない。おれが近づくとびくっとするタイラさんが良いのに。  まあ、おれもメシ食ってないからなんか作るし、浴室は台所の横だから、倒れたらわかんだろーと思って、仕方なくタイラさんを見送って台所でキノコとキャベツとニラをざくざく切っていく。  冷凍鳥団子と中華スープの素をお湯の中にぶっこんで、野菜ぶっこんで適当にスープにして煮立ったところで火を止める。あとはチャーハンにしようかうどんにしようか迷っているときに、タイラさんはのっそりとシャワーを終えて帰って来た。  ひとまず生きてて安心。やっぱ死ぬのはよくないよ。うん。おれはタイラさんに嫌われたいけど、勿論危害を加えたいわけじゃない。死ぬなんて以ての外だ。 「……タイラさーん酔っ払ってんのー? 服着んの忘れてなーい?」  このど真冬にパンツ一枚で廊下に出ないでほしいんですけどー。ヒートショックって知ってる? 知ってるでしょ? 頭いいんだからさぁ。  これだから酔っ払いはわからない。  仕方ないから冷め始めた骨ばった肩を押して、無理矢理居間に押し込んだ。  ストーブ完備の部屋はぬるいくらいにあったかい。  そういやおれ、石油ストーブほしいんだよなぁ。ちょっとハロゲンだと一軒家の個室あっためるには無理がある。この家古いし、断熱みたいな概念が心許無いし。  おれはべつに寒くても暑くてもまあまあ死なないんじゃない? とは思うけど機材は別だからさ。  なんて、ストーブ眺めながらぽやぽや考えていたら、タイラさんに腕引っ張られてうっかりよろけてしまった。不意をつかれたせいで踏ん張れなくって、タイラさんの隣にすとんと腰を下ろしてしまう。 「う、わ……っ、わー……びっくりし、た? え、ちょっと、ほんとどうしちゃったのよっぱらーい」 「……あいさん、めっちゃいいひとじゃんー……」 「え? 藍ちゃん? そうだよ? いいひとだよ? ……いいひとかな? んーどうなんだろ、おれは好きだけどね」 「おまえがたすけたってきいたよ」 「…………そうね。厳密にはちょっと手遅れだったんだけどね」  藍ちゃんと出会ったとき、ええと……四年前かな? おれに依頼してくれたのは藍ちゃんの弟で、おれの仕事は家族を救うことだった。  結果、藍ちゃんしか残ってないんだから、依頼は失敗したと言ってもいい。てーか惨敗だ。  藍ちゃんを助けた、ってのは嘘じゃない。おれは確かに藍ちゃんを助けた。でも、依頼は成し遂げられなかった。  そりゃおれだって失敗することはある。どうにもなりませんでしたーってこともある。  でもさ、流石に目の前で人が死ぬのはあんまりいい気分はしないっていうか――おれだってフラバしちゃうことはあるんだよね。  だから藍ちゃんとおれはこの話をしない。極力しない。藍ちゃんもタイラさんにふわっとしか話してないだろうから、おれも適当に濁しておいた。  面倒くさい話題はさっさとなかったことにする。これが一番楽で簡単な方法だ。 「ていうか服どこおいてきたのー? おれはエロイことしてるときのタイラさんが好きなんであって、別にタイラさんのパンイチ姿に興奮とかしないんだからねー?」 「あー……? あーそっか、おまえ、ゲイじゃねーもんなぁ……そりゃそっかぁ」 「つかタイラさんはおれの裸とか興奮すんの?」 「……まあ……そりゃ、多少はー……」 「え、うそ。どこ? どこらへん? あ、おれも脱ぐ? どうする? どこが興奮しちゃうポイントなのか知りたいー」  ぐいぐい、いつもの調子で押して押して畳の上に押し倒す。風呂のせいか、タイラさんはちょっと正気に戻ったっぽいけど、まだ顔は赤いし目は潤んでいるしどう見ても酔っ払いだ。  ほんとどんだけ飲んだのあなた。お土産やっぱり渡すのやめる? って迷っちゃう。  いつもの調子のおれは、いつものようにやめろばかって慌てて押し戻されるもんだと思っていた。だってタイラさんは、馬鹿の一つ覚えのように『やめろばか』って言うから。  それなのに酔っ払いの手は抵抗せずに、なぜかおれの首元をなぞる。 「あー……鎖骨、わりと好きだな。なんか骨がごつくてかっこいいしえろい……あとは腕のつけねんとこと背中も、うん……」 「……タイラさん、実は泥酔してる?」 「かもー……久しぶりにあんだけ飲んだわ……ひとりだと、あったまいってーなってとこで止めるからさー……。あ」 「あ?」 「――のどぼとけ、すき」  喉を指でなぞられて、ふふ、と笑われる。  …………思わずその手を掴んで指を絡めて、酒臭い唇を口で塞いだ。  いや、あの、ほんとに酒臭い……けど、なんかそんなのどうでもいい。いまのタイラさんが悪いよ。悪いよね? だってなんか……ちょっといまの、グッと来たんだもの。 「……っ、ふ、ぁ…………ナガル、手……」 「ん。……んー、嫌だよ。離さないよ? 今さら抵抗したって遅――」 「ぎゅってできねーじゃん……」 「…………酒と一緒になんか変なものでも食った?」  結構本気で眉を寄せてしまう。あんまり顔に感情が乗らないタイプ、って自負してるけど、いまのは流石にタイラさんにもわかる程の変化だったろう。  おれを見てけらけら笑う酔っ払いは、食ってないし食おうとしたら馬鹿じゃんって止められたから食いたくないけど食っちゃいそう、なんて、藍ちゃんみたいな意味不明なことを言う。  これだから頭のいい中二病は嫌だよー。言葉は伝わんなきゃ無意味なのに、自分だけしかわかんない言葉吐くなんて自己満足じゃんー。ちゃんと伝える気がないなら吐かないでほしいよほんと。 「タイラさんが何食ったか知らないけど、酔っ払うとやばいってことだけはわかったよ。……もっかい口あけて?」  酔うとヤバいタイラさんは、酔うとすこぶる素直だってこともわかった。  うーんおれはやだやだやめてって泣きそうになりながら抵抗するタイラさん好きなんだけどなー。でも、順応なのも悪くはない。疲れないし、好き放題触らせてくれるし、こーしてあーしてってリクエストすれば、タイラさんはほんとに素直に従ってくれる。  脳みそ、アルコールでしんでんじゃないの。ちょっと不安になってくるくらい、今日のタイラさんはえっちに積極的だ。 「タイラさーん、舌だしてぇ。ほら、あーん」 「ん……ふ、ぁ…………っぁ」 「……舌、舐められんの、すき?」 「ふ……ふひ、ぁ……」 「おれもタイラさんの舌、ぬるぬるでえっちですき」  耳の後ろを指で撫でながら、するすると首筋を舐めていく。喉仏のあたりを齧られんの、すきだよね、タイラさん。  でもあえて歯を立てずに鎖骨まで下ると、期待していたらしいタイラさんが不満げに身体を捩った。 「んー? ……どしたの?」 「……噛んで」 「え、なに? どこを? どうしろって?」 「のど。……いつもみたいに、噛んで、ながる」 「えーほんと酔っ払いすごいねー酒やばい。……抵抗されんの好きなのにって思ってたけど、なんか、これはこれでいーね。うん。いいよ、タイラさんがしてほしいことぜんぶしたげる。どこがいい? どうする? いっぱい舐めていっぱい触っていっぱいイかせたげるよ? どこ? くび? みみ? あ、それとも中擦ってあげよっか? タイラさんが生は指でもダメって煩いからこの前コンドームとローション買ってきた――」 「ゆび、じゃなくて、」  その後に続いた言葉を聞いて、流石におれは『待ってこれ本物のタイラさん?』と思って身体を引こうとした……んだけど、顔を逸らして目も逸らしながら屈辱に耐えてるみたいな顔は正真正銘タイラさんで、うーん、……やっぱ酒のせいなの? という推測に落ち着くしかない。  お酒を飲むと人が変わるように殴る、みたいなひともいるもんね。  タイラさんはお酒を飲むと男が欲しくなって、チンコねだっちゃうのかもしんないよね。……なにそれ、やばいじゃん、絶対外でのませちゃいけないじゃん、こっわ。このひとこっわい。タイラさんが引きこもりで良かったよーほんと。首にわっかと鎖つけなくても済むもん。  ていうかそんなべたべたなAVみたいな台詞、吐く大人いるんだ、うはは!  はー……あれ、おっかしー、おれ勃ってんじゃん?  いやべつにタイラさんの全裸とか微塵も好みじゃないけど、まさかちゅーだけで勃ったんだろうか。ふしぎ。人体のことなんか自分のことでもわかんないよね、うん。  結構立派に硬くなってるソレを、タイラさんの腰あたりにこすりつける。 「……おれ、わっかんないんだけどさぁ。チンコいれられたことないから。コレって、指とか玩具とかより、イイもんなの?」  おれが乳首を弄りながらかました疑問に、酒とキスででろでろ状態のタイラさんは若干喘ぎながらものすごく恥ずかしそうに頷く。  女の子とかは、挿入ないならその方が楽みたいな子、結構いない? ほしいとかいれてとか、そういうのはAVだけのお約束な合言葉だと思っていた。  つかおれ、別に誰かに挿入して気持ちよくなろうとか思ってないし。  だって面倒くさくない? 疲れない?  射精したいだけならオナればいいだけだし、なにかにつっこみたいならそういうグッズを買えばいい。そしたら自分の手を動かすだけでお手軽に性欲を解消できる。  セックスって面倒くさい。動かなきゃだし、相手は女の子でもそれなりの重さあるし、右手動かしてたらはい終わりーってわけにはいかないし。腰振るのだって疲れる。  別にタイラさんが相手じゃなくても、誰が相手でもおれは突っ込みたくない。面倒だから。相手を嬲って楽しむときに、別におれのチンコなんか道具として必要ない。世の中にはたくさんチンコの代わりがある。  そう思っていたのに、なんと酔っ払ったタイラさんはAV顔負けのおねだりをかましてきた。  うーん……挿れられんの好きだったのかな。そしたらいままでずーっと、言いたくても言えなかったの? チンコ挿れてほしいって? そんな感じしなかったけどなぁ……ま、おれ、ヒトの感情とか基本どうでもいいから、おれの感性なんか微塵もあてにできないんだけど。 「別に挿れてもいいけどさぁー。おれ、あんまセックスしない人だから、下手かもよー? てかタイラさん、いつもはおれが触ろうとすると洗ってないからだめーってうるさいじゃん? それはいいの?」 「……さっき、風呂で、ちょっと準備した」 「わあ。……なあに、最初からヤる気満々じゃーん」  耳元でそんなにおれとセックスしたいのー? と笑う。いつもは嫌だやめろと首を振るだけなのに、快楽に支配されちゃってるらしいタイラさんはびくっと身体を揺らした後に素直に、けどものすごく恥ずかしそうに頷く。  そっかーおれとセックスしたいのかー。うーん、そう言われちゃったら、まあ、……挑戦してみよっかな。 「ねえ、おれあんまセックス好きじゃないから、疲れたらやめるし、面倒だったら放り出すよ? ていうか最近そういうのやってないから、どういう感覚かも忘れちゃってる。……それでもいいの?」 「……、っ……いい、から……」  したい。  シンプルなこの言葉に、うっかり煽られちゃった、わは。はー……いや、なんでかな。なんでだろ。ま、よくわかんないことはいま考えても仕方ない。後で暇な時にちゃんと考えることにして、とりあえずおれはタイラさんのパンツの中に手を突っ込んだ。  うーん、もうこいつの感触にも慣れちゃったな。 「…………あとでレイプされたーとか言わないでね?」  言うかよばか、と切れ切れに怒る声だけはいつものタイラさんに近くて、なんとなくおれは安心してしまった。  ま、この後完全におれも一緒にぶっ飛んじゃって、理性云々とかどうでもよくなっちゃったんだけどさ。  気持ちいいとか悪いとか、あんまり覚えていない。熱くて楽しくてかわいくておれのチンコでぶっ飛ぶタイラさん最高すぎて、あー……まずい、これ、ちょっとはまっちゃうかも、なんて。  素面のタイラさんが聞いたら顔面蒼白で一メートルくらい距離を取りそうな事を、考えた夜だった。

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