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残った二人の人間未満

 自慢じゃないけど、落ち着かない人生を送って来たよ。  場所も、ヒトも、とにかくおれのまわりのものは長く落ち着くことはなくて、常に慌ただしく入れ替わる。  実際はおれがたらいまわしにされてるだけなんだけどさ、はは。でも、おれの世界はおれが中心なわけで、だからおれから見たら慌ただしいのはおれの人生じゃなくっておれ以外の世界の方だ。  義父さんに引き取られた時の事はあんまり覚えていない。  おれはどっかの老夫婦と暮らしていて、それが実の祖父母なのかどうなのかすら知らなくて、気がついたら浦辺永作の養子になっていた。  おれの人生で、一番長く一緒にいた人。  でも浦辺永作はどうやら人間じゃなくて、化物だったらしいから、ヒトとしてカウントしていいのかはわからないなぁ。そういう意味だと藍ちゃんも藍ちゃんだから、うーん、やっぱりおれのまわりの人間で、ちゃーんと顔と名前覚えている人ってほとんどいない。  義父さんが逮捕されたのはいつだっけ。  ええと、十年前? くらい? だった?  うん、たぶんそのくらい。だからおれは十三歳で、中学一年だか二年だかで、勿論当たり前のようにハブられたし、当たり前のように腫物だったし、親戚どころか全然関係のない大人たちにどんどこたらいまわしにされて、ガンガン干渉されて、高校卒業したらもう大丈夫だよね大人だもんねって感じでぽーんと社会に放り出された。  時折電話してくるテレビとか雑誌の人も、興味本位で話しかけてくる同級生や先輩も、おれの顔を知ってるだけの近所の人も、みんなみんな同じことを言う。  ねえ、きみのお義父さん、どんな人だった? きみはお義父さんのこと好きだった? 大好きだった? お義父さんは優しかった? きみは好かれてた? 愛されてた? どうしてかな? 他の子どもたちは殺すのに、どうしてきみは殺されなかったのかな。  学校のセンセイも、カウンセリングのおばさんも、精神科のおじさんも、みんなみんな同じことを言う。  彼は化物です。彼は人間として不完全です。彼はあなたを愛してはいません。彼があなたにしたことは虐待です。およそ人間の親として、大人としてありえないことです。あなたは正常です。あなたは彼の遺伝子とは無縁です。  おれを育てようとしたたくさんの自称保護者は、みんなみんな同じことを言う。  愛想よく笑いなさい。おまえは殺人鬼の息子なんだから。きちんと心底憎みなさい。あれは殺人鬼なのだから。笑いなさい、憎みなさい、笑いなさい、憎みなさい。  昔のおれってば結構素直で、っていうか馬鹿で、今よりいっそう人形で、だからおとなしくその全ての言葉を吸収した。中身の詰まっていないスポンジだったのかも。あの人と一緒に過ごした数年間は、ちゃんと考えて生きていた気がするんだけど、あの人が逮捕されてからおれは本当にスポンジになってしまったのだ。  スポンジだから、シンプルに吸収した。  スポンジだから、なんの疑問も抱かなかった。  お義父さん? 殺人鬼です。どう思っていた? 嫌いです。勿論嫌いです。大嫌いです。怖いです。憎んでいます。どう思われていた? 嫌われていました。愛情なんてあるわけないです、だってほら、あの人は化物なのだから。  嫌い、嫌い、大嫌い。義父さんのことが、大嫌い。大嫌い。大嫌い――ねえ、でも、そうやって繰り返し憎むときに思い浮かぶのはさぁ、義父さんと一緒に手を繋いで散歩した日の、空の色なんだ。  嫌いに塗りつぶされる前の感情は、もう、忘れちゃったけどさ。 「……モノル?」  コンコン、なんていう控えめすぎるノックの音で、ぼやーっと瞼の上に乗っかっていたようなまどろみが一気に消えた。空の色も、繋いだ手の妙な温かさも、全部颯爽と霧散する。  おれの愛称をリアルで呼ぶのは、藍ちゃんだけだ。  よろよろと立ち上がって、よいしょーと色々避けて、ずりずりと足を引きずりながらどうにか扉を開けると、やっぱりそこには予想していた通りの人が立っていた。  今日もどうみても健全な興信所職員というよりはお宝盗みますキラーンみたいな見た目の藍ちゃんは、ちょっとだけ声を潜める。 「あー……ごめん、寝てた?」 「んー。寝てたーけど、すげーいやーな夢見てたから、ナイスタイミング藍ちゃーんって感じ……」 「あんた、夢とか見るんだね……」 「わぁ。藍ちゃん、おれのことなんだと思ってんの?」 「ぶっ壊れた人形――って思ってたけど、いまは死に損ねてくれた人間未満って感じかな」  あ。藍ちゃんまたなんか勝手にうまいこと言ったつもりでドヤってるな。ほんとそういうとこねー、直した方がいいと思う。おれに言われたかないだろうけど、会話は本来キャッチボールだからね? おれに言われたかないだろうけど。  おれの微妙な顔を見て察したのか、藍ちゃんは仕切り直すようにさっさと空気を変えた。 「頼まれてた食料、買ってきたよ。冷蔵庫に適当にぶっこんどいたから、確認しといて。あと明日時間空けたから、病院送ってけるから。タイラくんにもそう言っといて。わたしの車のほうが、タイラくんは都合いいでしょ?」 「あーうん。公共機関ってさーよくないの一緒に乗っちゃうと、逃げ場ないからねぇ」 「……タイラくん、具合どう?」 「え、なに? タイラさんの健康状態? そこそこしんどそうだけどあの怪我にしちゃ元気なんじゃないのって感じだよ? えー、藍ちゃんまだ心配してんの? どうする? そこで寝てるけど叩き起こす?」 「いや、いい。いいから、寝かしといてあげて、ほんと、元気ならそれでいいから」 「元気だってばぁー。おれが付かず離れず看病してんだよ? 言っとくけどおれ、家事能力だけならそれなりだかんね? まあ、いま足はズタボロですけどーおれの両手も上半身もちょう無事だもん!」 「……つか、あんたが付きっ切りってのが一番心配なんだけど」 「わー。ひっでーの。すごい! すっごい献身的に介護してんのに! ねータイラさんひどいー! 藍ちゃんがおれを全力でー侮辱するー!」 「わかった。わかったわたしが悪い。だから起こさなくていいから!」  邪魔しちゃ悪いから帰るねと言い捨てて、両足が健康な女はすたすたと玄関まで歩き、蹲ってる子供をひょいっと跨いで、天井から垂れ下がってる左手をさっと避けて、颯爽と帰って行った。  うーん、藍ちゃんは今日もさっぱりしているし、仕事も完璧で素晴らしいなぁ。ネットスーパーを頼ってもよかったんだけどさ、藍ちゃんが鍵預けてくれるならお使いくらいやるよと名乗り出てくれたから、ありがたく鎌屋家のスペアキーをほん投げた次第だ。  何と言ってもおれはいま、台所に立つ程度が精いっぱいな状態だ。  わくわくうきうき、冬の温泉旅行~真夜中心スポ凸☆トワコとの最終対決~から、一週間が過ぎた。  なんとおれは死に損ねた。  しかもタイラさんも生きている。ついでに言うともうほんとしぬほど最悪なんだけど、キシワダトワコも引き続き鎌屋家を元気に呪っている。  つまり状況は旅行前とほとんど変わっていない、ってわけだ。各々、トワコも含めて若干弱ったくらいかな。  トワコぶっ殺そう計画は失敗した。おれが死に損ねたってことはまあ、そういうことだ。  あの状態での最悪はおれもタイラさんも死んじゃって楔にもなれずトワコ独り勝ちかーらーのータイラさんのお母さんとこにトワコどーん! 一家全滅! さあトワコの次のターゲットは誰!? って奴だったわけだけど、それを念頭に置けばまあ今回の結果は、えーと……いや、でも、最高じゃないよな。うん。ふりだしに戻る、って感じだ。  ……ま、生き残っちゃったもんはどうしようもない。  ど真冬の滝つぼに二人そろって見事に落ちて、奇跡的というよりは順当に生還した。そもそもあそこ、落ちただけで死ぬほどの高さじゃないんだよ。おれはもう入水くらいの気持ちだったからそのままフライハイしたけど、本来は重りをつけて飛び込むらしい。  タイラさん抱えて死ぬわけにいかなかったから、おれは冷たい水の中どうにかもがいて、岸に這い上がった。  当たり所が悪くておれは足にヒビ入ったし、タイラさんは右肩の脱臼と捻挫とあばら骨何本か折っちゃったし、そんな状態でよくぞ山を下ったよなぁ、指とか凍傷にならなくてよかったなぁと思う。まじで。正直記憶があやふやなんだけど、ものすげー寒かったことは覚えてる。  本来は入院生活を余儀なくされる筈だったタイラさんは、病院泊三日目で音を上げて、熱が下がったタイミングで結構強引に退院した。  まーね、病院なんてねー、避けるのが大変なくらいいろんなもんで溢れてるしね。  夜中起きたときに五人くらいからのぞき込まれていて、もう無理、と悟ったらしい。  相変わらず幽霊ホイホイなのは、トワコのせいなのかタイラさんの素質なのか、結局わからずじまいだ。 「……ながる……?」  んー、今日はなんか天井の方にいろんなの増えてんなぁ、塩撒くの面倒くさいなぁ、上に投げるのってむずかしくない? なんてぽやぽや考えていたら、ベッドの方からもにゃっとした感じの声が聞こえた。  おれに与えられた、仮の部屋。元はタイラさんの親父さんの部屋だったらしい和室には、むりやりつっこんだ結構デカいサイズのベッドがある。  おれってば身長は規格外だからさ、普通の布団とかだと不便なんだよね。外人さん向けの寝具ってベッドしかなくて、昔っからベッドだけはでかいやつ使ってんだけど、誰かを抱えて寝るのにちょうどいいサイズだなんて事実、初めて知ったわけだ。 「……ながる、いま……だれか、……」  途切れ途切れに、タイラさんは声を絞り出す。ゆっくりと喋る。その声は、ちょっとだけ舌ったらずで、子供みたいだ。  タイラさんは打ち所が悪かった。あの滝から落ちた後遺症で、言語能力と記憶力に障害が残って――いるわけではなく、単純に寝起きだからもにゃもにゃしてるだけだ。この人の寝起きって大体小学生みたいだからね。打ち所が悪かったのはホントだけど、なんと! 頭は打ってない! てかおれが死守したし。  上半身はやばい。とくに頭はやばい。  落ちる瞬間、瞬時に判断してとにかくタイラさんの頭守んなきゃって抱き込んだおれはえらい。すごく、とても、大変えらい。  大変えらいのに、おれたちが搬送された病室に駆け込んできた藍ちゃんの第一声は罵倒だった。ひどい。  藍ちゃんはおれに向かって『馬鹿』と叫んでから、タイラさんにありがとうと言って泣いた。  おれはタイラさんの為に飛び込んだし、死のうと思ったし、結局無理だったけどせめてタイラさんは守んなきゃって思って頑張ったのに、なんでか藍ちゃんに感謝されてんのはタイラさんで、うーん解せない。  でもなんか、タイラさんもぼろぼろ泣いてて、おれが口だしたら二人そろって怒りそう~って感じだったから、おとなしく黙ってたけどね。  寝起きでもにゃもにゃしてるタイラさんは、まだちゃんと覚醒してなくて、手だけ伸ばしてもぞもぞと何かを探しているみたいだ。  たぶん、いつも自分の寝床の頭の上に置いてある煙草セット探してんだと思う。  朝起きたらまず一本、頭がすっきりしたらもう一本って感じだもんね、タイラさん。でもその煙もくもくでる葉っぱの筒さぁ、結構人体に有害だって知ってる? そんなもん、病人の枕元に置いとくと思う? 「タイラさーん、煙草探してもないよー? せめて痛み止め飲まなくていいようになるまでってか自力で動けるようになるまで、煙草なんか吸っちゃだめだっつってんじゃーん。ちょ、こら、ばか、落ちる……っ!」  いやほんと、藍ちゃんもだけどさ、まじで、おれに馬鹿とか人としてとか言わせないでよって思うんですけど。藍ちゃんはまあおいといて、タイラさんってわりと人間未満って感じじゃねーのって思うよほんと。  意地汚く煙草探して寝ぼけたままベッドから落ちそうになっているタイラさんは、おれに言われたかないだろうがたぶん馬鹿だ。足引き摺って、無理矢理駆け寄る。くっそ痛いんですけど! あなたほど重傷じゃないにしてもけが人なんですけど! 「うっわ……いってぇー……っあー、もう、なんなの、寝起きのタイラさんきらいー……煙草なんかなくっても脳内物質バンバン出してしゃっきり起こせばいいんでしょ? はーいタイラさんあーんして。あーん。そうそう、いいね、いいこだねー舌出してねー」  まだ夢うつつっぽいタイラさんの顔をぎゅーっと両手で挟んで、食べるみたいにキスをする。っていうか口をふさぐ。  いつもは適度に与える息継ぎはガン無視だ。  舐めて、なぞって、弄って、嬲って、吸って、塞いで、煽って、三分くらい思う存分べったべたでぐっちゃぐちゃなキスかましたところで、やっとタイラさんの左手がおれの背中をバシバシ叩く。  んー……ふふふ。痛い。でもまあ、おれが怪我してんのは足だから、背中叩くくらいは別にいい。 「……っ、ん、……ふ、……ぁ、なが……っ、し、しぬ……っ、待っ……!」 「んー。……死なないでしょーこんくらいじゃ。トワコの耳舐め攻撃に耐えたんだからおれの渾身のちゅーくらい平気だよぉー。てかタイラさんまた熱あがってないー? 必要なのは煙草じゃなくて体温計じゃん。もーさっさと全快してよねぇ、せっかくタイラさんもおれも生きてんのにタイラさんが本調子じゃないとーえっちできないんだよー」 「おまえ……俺の、身体が目当てみたいな言い方すんのやめろよ……」 「え、そんなことないけど。別に三十一歳の男の身体に興味ないし。タイラさんの身体はタイラさんだから好きなんだよ?」  おれはすごく素直に当たり前のことを言ったのに、タイラさんは変な顔してぐっと息を飲んで、おれの胸んとこあたりに顔を埋めてしまう。  タイラさん基本はがさつなオッサンなのにね。こういう仕草はなんてーかさ、女子大生? って感じで面白いよねー。たぶんわざとじゃなくって無意識なんだろうけどさ。  タイラさんはわざとかわいこぶるみたいな器用なことできないもん。なんていうか、そういうところがおれ的にはぐっとくるわけだし。  タイラさんのあっつい耳をぐにぐにひっぱって、やめろって邪険にされてうふふと笑う。  左手しか動かせないタイラさんは、いつもの三割くらいしか抵抗してこない。よわっちくて最高だ。  うーん。……タイラさんのあっつい身体弄ってると、死ななくて良かったのかもー? と、思わなくもない。べつに、あの場ですとーんって落ちちゃっても、おれには後悔なんかなかったけど、生き残ったからってベスト自殺タイミングを逃した悔いもない。  おれの命は重くも軽くもない。あの時は正しく『いまじゃん!』って思った。それだけだ。  抵抗できないタイラさんにもっかいちゅーしてから、すごーい至近距離で『ごはんつくる? たべる?』って囁く。  この療養期間で発見しちゃったんだけど、タイラさんはおれが甘ったるく甘やかすとなんかこう、恥ずかしさが許容オーバーしちゃうみたいですごいかわいくテンパりだす。 「おまえ、その、わかってて、わざと、えろい声だすの、やめろ……」 「えー。えろい? まじ? うは、初めて言われ……あ、うそ、たまに配信のコメントで言われるーけどあんなん誰にでもコメントしてんでしょって奴だし、うん、初めて言われたってことでいっか。別にー嬉しくないけどー。おれが囁くたびにタイラさんがチンコおったててくれるなら嬉しい! ってなるなぁ」 「勃つわけねーだろクソヤロウ」 「ん~……タイラさんあれだねぇ、滝つぼダイブしてから随分とスパーンって言葉ぶっぱなすようになっちゃったねー」 「おまえに対してはガンガン思ったこと言わねえとなんも伝わらねえって思い知ったんだよ! 言っても伝わんねーけど!」 「わかってんじゃーん。すごーい、さすがおれの手を掴んだ初めての男ー」 「はじめての、おとこ……?」 「え、うん。そうだよ? はじめてのおとこ」  にっこり。他の人だったら絶対に半歩どころか三歩くらいは引いちゃうだろうなーって感じの笑顔をぶっかましても、タイラさんはびくともしない。普通に怪訝そうな顔を晒しているだけだ。  さすがおれのはじめてのおとこ!  ねえタイラさん、おれってばね、本当にびっくりするくらい落ち着かない人生だったの。  いろんな人がいろんな理由で手を差し伸べてきて、ほとんど全部の人がびっくりするくらい一瞬で呆れて諦めてさっさと手を振りほどいた。おれから手を離すときもあったしね。それはもう、そういうタイミングだったんだと思うよ。いままでそうやっていろんな人間と関係を断ってきて、後悔したことなんか、一度もない。  でも、おれが振り払った手を、もっかい掴んだのはタイラさんだけだ。適切なタイミングで、おれの手を離さなかったのは、あなたがはじめてなんだ。  あなたはおれの手を掴んだんだよ。  それがどういうことか、ちゃーんとこの先身をもってしっかり思い知ってね、と笑うと、流石のタイラさんも半身くらい身体を引いたせいで壁にぶつかってた。  ふふ。タイラさんはトワコとうきうき同棲ができる鋼の心臓の持ち主なんだもの。化物のなりそこない一匹くらい、面倒みてくれるでしょ?  って思ってドン引きしているっぽいタイラさんにかぶさるようにもっかいチューして、これからずーっとよろしくね、と笑う。 「ん、ふ……は、え? ずっと? ……え? おまえ、ママ……キシワダ某が、いなくなったら、出てくんじゃ、」 「え、なんで? そりゃトワコの除霊はなるはやでやるけど、あいつ居なくなってもおれは此処に住むよー?」 「……なんで」 「え。だって、この家にはタイラさんがいるから」  何でそんな当たり前の事訊くんだろうなーって思って首を傾げたんだけど、当のタイラさんはなんかこう……なんかよくわかんないけどびっくり顔したまま固まって、そのあとヘロヘロって感じで壁からずり落ちた。 「……わからん。おまえのこと、全然わからん……」 「わ、奇遇。おれも全然わっかんないおれのこと! こんな風に誰かが特別になることってなかったんだよねぇ、まあ藍ちゃんは結構特別だけど、あれはおれも引け目っていうかちょっと贖罪っぽいとこもあるしー。タイラさんに関しては全然微塵も申し訳なさとかないんだけど、むしろおれが死ぬの阻止したこと一生謝ってほしいくらいなんだけど、うーん……なんでこんなに好きなんだと思う?」 「知るか……俺に訊くな……」 「だよねーうはは。ねーねータイラさんはぁ? タイラさんはおれのこと好きー? 一番好きー?」 「うるせー笑うな世界で一番嫌いだよ」  うはは。うそつき。  ……って言おうか迷ったけど、やめといた。  おれは嘘嫌いだし、嘘つきも嫌いだけど、タイラさんがおれのこと嫌いって言うときの嘘だけはかわいいから許してあげるよ。  おれは人間の好意が嫌いだし、好きになられたら困るけど、タイラさんは人間未満だし人間っていうかタイラさんだから、まーいっかぁって思うしね?  言わないけど。ふふ。だって視線を逸らすあなたの顔は最高に可愛いから。  かーわいーってテンションあがってもう一回ちゅーしようとしたら流石に阻止されちゃったけど。  ま、別に今日も明日も明後日も、タイラさんにちゅーする機会は山ほどあるし、どうでもいい。おれはね、あなたが掴んだこの手をね、離すつもりはもうないからね。 「タイラさーん、献身看護と三食介助のお礼は身体でいいよ? おれねータイラさんにエネマグラつっこみたーい」 「語尾にハートつけてエグイお願いすんのやめろ……」  ぐったりするあなたが可愛くて、ちょっと本当に、人間みたいにわははと笑ってしまったよ。  さてこの後もおれたちはユーレイを見たりユーレイに襲われたりユーレイを除霊したりトワコに塩ぶつけたりしながらふつーに日々を消化していくわけだけど、それはまあ別の機会でいいんじゃないの?  またねーばいばい、お互い生きてたらまたどっかで見てやってね、チャンネル登録、評価、コメントよろしくねーってのは、おれの動画のいつものさよなら文句だけどー。  ……高評価押してもらっても、タイラさんはあげないからね? 終 ※ ※ ※ とりあえずひとくぎり。 ここまでの話を2022.4.3開催J.garden51にて同人誌にまとめて頒布予定です。(通販未定) ご興味ある方はよろしくお願いしますー。

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