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部活にならねー……

 ホイッスルの音に合わせて、部員たちが順番にプールに飛び込む。  今は、部活の最初に行うルーティンの最中だ。ストレッチの後で身体を水に慣らすために、まずはそれぞれが好きな泳法で50mを泳ぐ。  俺は二年の列の最後尾にいて、腕を振ったり首を回したりしながら、自分の順番を待っていた。  俺の前には敬太、敬太の隣には弓月がいる。二人もめいめい軽いストレッチをしているが、教室にいるときのようにぺらぺらおしゃべりをしたりはしない。弓月はすでに濃色のゴーグルを装着していて、いつになく引き締まった顔をしているように見えた。ここ最近ぐんとタイムを縮めている弓月は、おそらく来年はスタメンに選ばれるだろう。俺も気を引き締めていかねーと、と思いながら肩を回したりしているのだが……。  俺はまだ、昼休みの不完全燃焼を引きずっている……。  身体がもぞもぞして、落ち着かない。  翔のディープキスで昂らされた身体がはじんじんして熱っぽいし、あいつのおっぱいの感触が手のひらから消えねーし、まだまだ舐め足りねーし、エッチしたいし…………っておい俺。部活中に何考えてんだ俺。  それに俺、部長だから。あとで部員全員の前に立って、「もうすぐ冬休みだしクリスマスだからって浮かれてんじゃねーぞ」って引き締めなきゃいけねーのに。いろんな意味で一番浮わついてんの俺じゃねーかよ……!  俺はす〜〜〜〜は〜〜〜〜と深呼吸を繰り返し、バシバシと頬を叩く。すると目の前で、敬太が軽やかにプールの中に滑り込んだ。  いつ見ても惚れ惚れするような泳ぎっぷりだ。敬太の泳ぎはダイナミックだけど無駄がなくて、すごくきれいだ。水に溶け込むかのようにしなやかなバタフライを泳ぐ敬太の背中を眺めつつ、俺もスタート台に立った。  するとすぐにホイッスルが鳴り響き、俺はスタート台を蹴って水の中に飛び込んだ。……飛び込んだのはいいんだけど……。  ――……うえっ……なんだこれっ……水の刺激が……っ、なんかっ……。  肌の上を滑っていく水の流れが、ぞわぞわと俺の性感をくすぐっていく。クロールで水を掻くたび、うねりとなって後ろに押されていく水の動きや、ほんのり冷たい温水の感触……様々な感覚が、いつもと違う。まるで肌に絡みついてくるような感じがして……。  ――あぁあ、うわぁあ、どうしよう……、気持ちいいような、気持ち悪いようなぁっ……!! うあぁあ、50泳げんのか俺!? でも、途中で足つくとかありえねーし!! あぁあ、たすけてっ……!!  息継ぎのたびに叫びたいような思いに駆られつつ、俺はなんとか50メートルを泳ぎきった。そしてなんとかプールサイドに這い上がり、その場でがっくりと膝をつく。うう、立ち上がれない……タイムを取られるもんじゃなくてよかった……だって俺、ビリじゃん。一年の奴らが俺のこと不思議そうに見てんじゃん……。 「瀬名? どーしたんだよお前、大丈夫か?」  と、すぐそばにいた敬太が駆け寄ってくる。弓月が水原を呼ぶ声も聞こえてくる。……お、おいおい……そんなおおごとにしないで欲しーんだけど……。俺、ただムラムラしてただけだし……。 「桐生、どうした。やっぱりお前、体調悪いんじゃないのか?」  駆け寄って来た水原が、俺の背中を軽く撫でた。濡れた背中に水原の指が滑るその感触だけで、俺は「はぅ……っ」と小さく呻いてしまった。そしてすぐに唇を噛む。  ――……は、恥ずかしい……どうしたんだ俺。やべ……勃ちそう……一回抜かねーと、部活にならねーよ……。 「霧島、桐生を保健室に連れて行ってやれ」 「ウィッス」 「だ、だだ、大丈夫っす。ちょっと休めば……」 「でも、熱っぽいよ。保健室で検温してこい。もし熱が高いようなら、そのまま帰ってもいいから」 「……けど」 「無理は禁物だよ。さぁ、行っておいで」 「……はい」  敬太に差し伸べられた手を掴んで、俺はよろりと立ち上がった。ぐいっと力強く引っ張り起こされてふらついた俺は、思わず全身で敬太にぶつかってしまった。……そして、敬太の濡れた肉体に肌が触れた瞬間、また……。 「ん、ァっ……」 「え? どーしたんだよお前。やっぱ熱でもあんじゃねーの? 弓月、タオルとジャージ取ってやって」 「おうっ」  弓月から投げ寄越されたタオルで身体を拭い、火照った肌をジャージで隠すと、少し気分がましになったような気がする。温水プールを出て渡り廊下を歩いていると、俺と同じくジャージの中に水着を着たままの敬太が、くしゅんと小さくくしゃみをした。俺は火照ってるからそんなに寒さを感じないけど、敬太に風邪を引かせるわけにはいかない。 「敬太、戻ってて。俺、ひとりで行けるからさ」 「え、でも」 「さみーだろ。エースのお前に風邪ひかせるわけにはいかねーんだよ」 「……んーまぁ、さみーけど」 「保健室くらい一人で行けるって。ほら、戻れよ」 「……おう、分かった。無理すんなよ」 「サンキュ」  小走りにプールへ戻って行く敬太を見送って、俺はその足でトイレへ向かった。昼休みとかに翔とおっぱい舐めあってた、あの体育館のトイレに。  けど今は放課後の、部活ゴールデンタイム。体育館にはバスケ部や卓球部の連中がわんさかいて、トイレの個室に引きこもってオナニー何て出来るような状況じゃない……。俺は回れ右をして賑やかな体育館を後にすると、元来た道を戻って、屋内プール裏の古い備品倉庫へ向かった。そこも、俺と翔のおっぱいスポットだ。  備品倉庫には水泳部の古い備品がしまい込んであるところだけど、屋内プールのある建物の中に新しい備品室が設置されてからは、ほとんど使われてない場所だ。本来なら、俺たち水泳部が(というか顧問の水原が)備品を新しい倉庫に移動させたり、不要なものは廃棄処分にしたりしなきゃいけないんだけど、なかなか手がつかなくてほったらかしって状況。  埃っぽくて雑多に物が置かれた場所だけど、俺にとっては慣れ親しんだ場所だ。人目を忍んで倉庫に入り、ドアにもたれてため息をつく。 「……ここなら、いいだろ」  一人になった安堵感からか、俺はその場にへたり込んでしまった。身体が熱くて熱くて、たまらない。ぴったりと身体にフィットした競泳水着のおかげで勃起したペニスはさほど目立っていないけれど、これ以上このままでいるのは無理がある。  俺は壁際に積まれた古いストレッチマットに腰掛けて、ジャージと水着を引き下げた。薄暗い倉庫の中ででも、自分のペニスが赤黒く脈打っているのが分かる。俺はすぐに己の分身を利き手で慰め始めた。 「……ん、は……はぁ……っ」    ――翔のやつ、覚えてろよ。こんな恥ずかしいことになってんのも、全部お前のせいだからな……。  昼間、翔にされたキスのことや、久しぶりに舐めた翔のおっぱいのことを思い返していると、ふと、俺を抱く翔の、ひりひりした表情が思い出された。その瞬間、俺のペニスはぐんとひときわ感度を増し、とぷ……と透明な体液が鈴口から溢れ出す。   「はぁ……っ、はぁ……ア……」  ――舐められてーな……翔に、ここ、舐めて欲しい……。  俺はもう片方の手を持ち上げて、ジャージの上衣のジッパーを下ろした。そして細く口を開き、自分の人差し指と中指を口に含む。熱くぬめった舌で、たっぷり唾液を絡めるように指先をしゃぶっていると、また変な気分になってくる。 「あぁ……ん」  ねっとり濡れた指先で、自分の乳首をいじってみる。翔とこうなるまでは、オナニーやアナニーの時に絶対自分で乳首をいじってたんだけど、今となってはもう、物足りない。 「翔……舐めて……はぁ……ッ」  組み敷かれながら、翔の舌で乳首を転がされる快感。バカみたいに善がる俺の見下ろして、優しく微笑む翔の表情。そして、翔の太いペニスが俺のアナルに挿入される、あの圧力……その何もかもが、欲しくて欲しくて、俺は一心不乱に乳首をいじりながら、ペニスを慰める手を速めた。 「はぁ……ぁは……あ……翔……っ」  会いたい、今すぐ、翔に会いたい。  バカみたいに一人で感じてる俺を、いつもみたいにめちゃくちゃに抱いて欲しい。セックスがしたい。翔に、抱かれたい。 「翔、んぁ、あ……翔……ッ……」 「……何やってんだお前」 「へっ……?!」  目を閉じて、翔はとのセックスを夢想しながらオナニーに耽っていたせいで、誰かが入ってくる気配に気づかなかった。  一瞬肝が冷えたけど、薄暗がりの中に佇んでいるのは、恋い焦がれた翔だ。  ……呆然とするしかない。

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