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第2話 ③

「見えたから、たまたま」 「ああ、ゼミ室。また野原さんと二人?」 「別にそういうんじゃないよ」  知ってる、と笑うハルは、昔はそんなことを聞かなかった。色んな何で、を飲み込んで、僕はハルの頭に手を伸ばした。  ハルがきょとんと上を見るから、「雪」とだけ伝える。  柔らかな髪に触れると、ハルが小さくはにかんだ。ぐしゃぐしゃにしてしまいたい衝動にかられた手をぐっとこらえる。  雪を払っておかしくない程度に髪型を直して、僕はそっと息を吐いた。  何でだろう。  用がなければハルに話しかけてはいけないんだろうか。昔は何でもないことで話をしたのに。二人で黙ったままいたなんて何度もあったのに。他の友人とのことなんて――異性とのことなんて、そんな風に言わなかった。まるでその関係を期待するみたいに。  僕との間に線を引いたようでいて、何で、そんな嬉しそうな顔をするんだろう。 「ゼミ室で何してたの?」 「論文読んでた。ハルは?」 「散歩? こもってたから気分転換」 「散歩って、この寒いのに――」  っしゅん。  ハルがきょとんとする。こらえようとして失敗したくしゃみに鼻をすすると、ハルがふき出した。 「そんな格好で出てくるから」  コートをきっちり着込んでいたハルは、手袋をした手で自らのマフラーを解き始めた。  子どもの三つは大きかった。僕にとってハルは随分と大人で、格好良くて、たまに驚くくらい子どもで、けれどいつも先を行くお兄ちゃんだった。

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