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第2話 ④

 大人の三つは小さい。背丈の差も縮まった。ハルができること、僕ができないこと。僕が順番にその穴を埋めた。 「ほら」  ハルが距離を詰める。マフラーを後ろへ回そうと、踵がわずかに地面から離れた。  くるりと温かさが首を覆う。伏し目になったその顔を、今の僕は少し上から眺めていた。  ハルの頭部がぐっと近づいて、清涼な、けれど暖かな匂いが鼻先をくすぐる。シャンプーか柔軟剤か、わずかでも動いたら触れてしまいそうな距離に脳裏がちかちかした。  マフラーが優しく整えられて、うん、と顔を上げたハルは少し目を見開いた。すぐに一歩、大きく後ろへ下がる。 「――ありがと」 「あ、うん、どういたしまして」  自分でやったくせに、ハルは早口でふいと目をそらした。 「じゃあ、早く戻りなよ」  ハルがゆっくりと踵を返す。 「ハルは?」 「コンビニ」  大人の三つは小さいと思っていた。けれどハルとの差は開いていく。必死で走って追いついたと思ったら、先を行く背中を見る。それならばと手を伸ばすとやんわりと避けられる。 「僕も行く」 「財布持ってる?」 「……ある」 「もう」  僕の嘘にハルが苦笑する。財布どころかスマートフォンも持っていない。 「じゃあ三百円までね」 「遠足のおやつか」 「懐かしいでしょ」  ハルはまた笑った。  そうして避けるくせに、必ず振り返ってくれる。足を止めて待ってくれる。  二人で駐輪場を離れて、人気(ひとけ)のない近道へ足を向けた。

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