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第14話

 成り行きでカフェに向かった日以降、以前にも増して彩花堂へ足を運ぶ頻度が増していた。というのも、度々紘人から連絡が入るようになったせい。  例の親子は、ほどなく菓子折りを持ってお礼の挨拶に来ていた。紘人から連絡を受けてはいたけれど、その日はちょうど仕事が立て込んでいて行くことはできなかった。後日『あの眼鏡のお兄さんにもよろしく』と何度も念押しをされたと聞き、親子からの菓子折りと新作の試食を渡された。そこで終わるはず、だったのだけれど。 (……むむ、)  デスク上に置きっぱなしのスマホが着信を告げる。画面には『試作品です』の文字と共に一枚の写真が添付されていた。あの日の宣言通り、ジャックオーランタンの練り切りが、画面越しにこちらを見つめている。この一件は終わったはずなのに、なんだかんだと紘人は連絡をよこしてきていた。どうしてだろう、と思いはするけれど、連絡を絶つ理由は見当たらないからなんとなく関係が途切れないでいる。  直接『店に来てほしい』と言われているわけではない。それでも、毎度絶妙にお菓子の写真が興味をそそってくる。この間は金魚、その前はひまわり。十五夜の羊羹は、月を見上げるうさぎの姿。切る場所によって月が満ち欠けする仕掛けつきだった。そうして京介は、連絡を受ける度につい彩花堂に寄るようになってしまった。 (今日も終わったら行こうかな)  今日の仕事がいつ終わるかは分からない。テンプレートのように『行けたら行きます』と返信して、京介はマグカップに粉末の緑茶を入れてお湯を注いだ。  最近インスタントコーヒーの他に常備するようになったお手軽な緑茶は、紘人からの貰い物だ。『あんこにはぜひ緑茶を』と言う若き和菓子屋店主は、菓子以外の営業もちゃっかりしている。お口に合ったら次回は買って下さいね、の言葉どおり、京介は次回同じものを買い足すつもりだ。 「近江谷先生、おはようございます。……今日はお茶ですか」 「萩野先生」  声の方向へと振り返ると、ほんのり目元を潤ませた瑞樹がこちらをじっと見ていた。その表情に、今日の検死案件になんとなく察しがつく。 「……子供絡み?」 「……無理心中疑いです。母親は助かったみたいですけど、幼児が」 「そう」  今にも泣き出しそうな瑞樹の肩をぽんと叩いて、京介はカップを置いた。代わりに常備してある黒糖まんじゅうをひとつ、瑞樹の白衣のポケットに突っ込む。 「CT撮ってる間にその顔なんとかしてきな。慣れろとは言わないけど、隠して」 「……はい、」 「辛いけど、ご遺体の声を聞くのが俺らの役目だから、ね?」 「わ、分かってます……。すみません」 「ん」  瑞樹はそそくさと更衣室の方に向かっていった。その後ろ姿を見て、京介もひとつ息を吐いて頭を雑に掻く。 (子供か……)  ぐっと胸が詰まる。それを飲み下すように、マグカップの中身をあおった。まだ熱い緑茶が、ひり、と喉を焼いた

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